「あんたさ、部活はどうしたんだよ」
「始まるまでまだ時間あるんスよ」

その時間を何故もっと有効に活用しないのか。放課後の教室で何故か二人きりの私たち。黄瀬と二人になりたい女の子なんか腐るほどいるのに、なんで私が相手をしなきゃなんないんだ。逃げたいのは山々だが、扉に寄りかかる黄瀬のせいで教室から出られないのだ。黄瀬に近寄られる度にいろいろ危険を感じるから、半径3メートル以内に侵入しないでほしい。自意識過剰かもしれないけど、でも遊び人の代表みたいなこの男にやたらつきまとわれればそりゃ警戒もする。

「何なら見に来てくれてもいーんスよ?」
「誰が」
「ま、ギャラリー多いから見にくいかもっスけど」
「あっそ」

だって事実だし、なんて真顔で言う黄瀬に強い嫌悪を覚えた。てか見に行くわけねーだろ。
毎日つきまとわれて、気付けば黄瀬くんではなく黄瀬と呼ぶようになっていた。こんな最低な奴に君づけなんてしてられるか。本当に、早くこの遊びに飽きて私の前から姿を消してほしい。

「てか小宮さ、好きな奴いんの?」

…仮にも私を落とそうとしているくせに、そんなことすら知らないのか。関係ないでしょ、と冷たく言えば、え、いるかんじ?と疑問系ではありつつもさして興味の無さそうなトーンで返された。私に好きな人がいようがいまいが関係ないということだろう。そんなのいても、最終的には自分に惚れるに決まってる、と。

「なんであんたに言わなきゃなんないの」
「俺が知りたいからに決まってるっしょ」

別に知りたくもないくせに。ふざけたその態度にイライラしてシカトすれば、大きな手に腕を掴まれた。次の瞬間には、ドアに寄りかかっていたはずの黄瀬が私の横に手をつき、私がドアに背中を預ける形となっていた。射抜くようなその視線に、吐き気がする。

「…なに」
「ちゃんと言わねえからっスよ」
「たいして興味もないくせによく言うね」
「はは、バレた?」

別にそこまで知りたくもねっス。さらりと言ってのける黄瀬は、本当に最低な男だと思う。黄瀬と同じように冷たい視線を送れば、奴は私の輪郭を、なぞるようにするりと撫でた。

「どうせ落とすし」
「…言ってろ」

その自信はどっから出てくるんだか。別に好きな人がいるかいないかなんて隠そうとは思わないが、こんな奴に答える義理なんてない。興味なんかないくせに詮索してくるあたり、本当にいい性格してやがる。
大嫌いなその瞳を、強く睨んだ。

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