「どうっスか?そろそろ気になってきた?俺のこと」

真っ向から暇潰し宣言をされて、早1週間。相変わらずコイツは私で暇を潰すという行為を続行している。本当に、迷惑極まりない。

「ないから。バカじゃないの」
「ほんっと難攻不落っスね」
「うっさい」

コイツに目をつけられてから、私を取り巻く環境は確実に変わりつつあった。もちろん、ろくでもない方向に。

「あんたのせいでいろんな子から質問攻めされるんだけど」
「俺もっスよ。ほっとけっつの、マジうぜーわ」
「だったら私に構うのやめたら」
「それはないっスね」

なんなんだよホントに。今もHRが終わった途端無理矢理連れ出され、奴の部活が始まるまでの僅かな時間をこうして体育館脇で共有することを強いられている。私はさっさと帰りたいが、コイツの目がそれを許さないのだ。これは、逆らうと後がめんどくさい。そんな匙加減をこの1週間で学んでしまったのだ。なんという無駄知識。

「あんたってさ、なんでそんな性格悪いの」
「…そんな面と向かって悪口言われたの初めてっスわ」
「私が今まで出会った中でダントツの悪さなんだけど」
「まあ、否定はしないっスけど」

本当に、何が彼をそうさせてしまったんだろう。そう考えた瞬間、早くも結論に辿り着いてしまった。
コイツの性格の悪さは、たぶん、周りの環境のせいだ。

「…まだ平気なわけ?そろそろ時間なるけど」
「ん、もーちょっと」

そう言うや否や、近付いてきた黄瀬はそのまま私を壁際に追い込んだ。うわ、こういうことにも慣れてきたはずだったのに、油断した…!こういうときは大抵性悪スイッチがフルスロットルで入ってる時なので、いつにも増してろくなことにならない。今日は何をされるのか。

「あんたさ、ないとか言ってるけど、実際俺のこと気にし出してるだろ」
「はあ?何言っ、」
「俺のこと、考える時間増えてるっしょ?」

今みたいに、と付け加えた黄瀬に、正直ドキッとしてしまった。もちろん決してトキメキの方ではないが。
確かに、以前までの私ならこんなこと考えなかった。環境のせいでコイツは捻くれてしまったんだなんて、いちいち考えたりしなかったはずだ。ましてや、それに同情めいた気持ちを抱くなんて、ありえない。

「あんだけ強気ではねのけといて、実際他の女と一緒なんスね、あんた」

軽蔑を孕んだその声と言葉に、体がカッと熱くなった。気付けば垂れ下がっていた腕が上がっていて、黄瀬の頬に向かって私の掌が勢いよく伸びていた。

「ほら、図星だから言い返せねーんだろ?」

いとも簡単に掌を掴まれ、そして叩くことの出来なかった手に指を絡められる。久しぶりに、コイツの行為に鳥肌が立った。以前は一挙一動に肌を粟立てていたはずなのに、こんなところにまで免疫がついてしまっていたのか。

「別に、そう思いたいなら思ってれば?あんたの勝手だし」

絡められた指先を振り払い、黄瀬の胸を押して距離をとる。もう帰ろう。私には、関係ないことだ。コイツがどう思おうが、コイツが何をしようが。

…関係ない、のに、なんで。

「…なんでそんな、悲しそうな顔してんのよ」

コイツの表情に潜む哀に、気付いてしまったんだろう。

×