「黄瀬くん、好きです」

菜緒に避けられるようになってから、目に見えて告白が増えた。以前菜緒と距離を置いた時にも告白ラッシュがあったが、今回も前と同じ規模で呼び出されて正直面倒臭い。休み時間の度にどっか行かなきゃなんない俺の身にもなれっての。

「ごめんね、気持ちだけもらっとくっス」

営業スマイルとはまさにこのことを言うのだろう。我ながら心にもない笑みを貼り付けるのがうまいと思う。こんな安っぽい笑顔に騙されるのだから、女なんて本当に馬鹿ばかりだ。

「やっぱり小宮さんが好きだから?」

俺を見上げてくるその目つきに吐き気がする。あー、うぜ。詮索したり干渉したりしてくる女が俺は一番嫌いだ。勝手に人の領域に踏み込んで、そのくせ考えてるのは自分のことだけで。めんどくせーなと思いつつも一応笑顔は保ったまま、声だけ少しトーンを下げる。

「関係ないっスよね、君には」
「っ…、でも黄瀬くん、フラれちゃったんじゃないの?ずっと小宮さんのこと引き摺るつもり?」
「だーから、関係ねーだろって」
「でも、」
「優しく言ってるうちに黙った方がいいっスよ?」
「っ」

俺の貼り付けたこの笑みがどれほど冷たいものかをやっと感じ取ったらしい目の前の女は、びくりと肩を震わせて口を噤む。あーあ、涙目になっちゃってるよ。泣かれても面倒だなとは思うが、だからといって何かこの女にしてやるほど俺は優しくない。放っといて教室戻ろうかな、と考えたところで、女は俺のシャツの裾を掴んだ。

「っ…、私じゃ小宮さんの代わりにはなれないの?黄瀬くんいつまで小宮さんのこと引き摺るの?私、私っ…」

イライラが、頂点に達した。女の顎を掴み上げ、壁に思い切り押し付ける。背中への衝撃で顔を歪める女に、嘲笑うかのような笑みを向けた。

「私は私はって、あんた何がしたいんスか?そんなに俺を怒らせたい?」
「ち、ちが」
「俺にどうして欲しいわけ?キス?ハグ?それともセックス?」
「っ、」
「どれもあんたにしてやるほど安くねーんスよ。菜緒の代わり?笑わせんじゃねーよ。もう二度と俺の前に現れんな」

掴んでいた顎を乱雑に離し、踵を返す。後ろから嗚咽が聞こえてきたが、それにすらイライラして無意識に舌打ちが洩れた。
菜緒に避けられるようになってから、俺は明らかに荒れていた。告白してくる女には今まで以上に酷な断り方をし、それはまるで八つ当たりのようだと自分でも思う。きっと端から見たら今の俺は相当痛々しいことだろう。だが、今はこうすることでしか、精神を保てないのだ。
日々を重ねる毎に、菜緒への想いが募る。会いたい、話したい、抱き締めたい。菜緒が、欲しい。

「…は、カッコ悪」

自分がこんなに哀れな人間だなんて思わなかった。女一人にここまで入れ込んで、しかも逃げられて。俺が想えば想うほど、菜緒が遠くなっていく。握り締めた拳を、隠すようにポケットに突っ込んだ。

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