がたんごとん、と揺れる電車に並んで座り、ひたすら窓を見つめる。空いている車両に乗ったから人はあまりいなくて、向かいの窓には私と黄瀬が写りこんでいた。

…待ってて、とは言ったものの、いつまで黄瀬を待たせればいいのだろう。いつになったら、私は答えが出せるのだろう。
そもそも黄瀬は、何故私なんかを選んだのか。もっと可愛い子なんて星の数ほどいるのに。私のどこがよくて、黄瀬はこんなに真剣になってくれるのだろう。

「……あんたさ」
「ん?」
「…私のどこがいいの」
「は?」

以前聞いた時は、あんたがいいからに決まってるとか適当なことを言われたけれど。でも、本当にわからないのだ。遊び人だったあの黄瀬がこんなに真面目になって私を好きでいてくれてる。その理由が、わからない。

「…冷たいように見えて優しいとこ、困ってると手差し伸べてくれるとこ、たまに笑うとめちゃくちゃ可愛いとこ、いっぱいいっぱいになると涙目になるとこ、まだまだあるけど、言おっか?」
「も、いい…!」

さらりと言ってのけた黄瀬は、それはもう涼しい顔をしていた。対する私は頬が紅潮し、とてもじゃないが黄瀬の方を見れなかった。恥ずかしくて、膝の上で握った拳をひたすら見つめる。他に自分の気持ちを落ち着ける方法が見つからなかったのだ。なのに、随分と余裕そうな黄瀬はぎゅっと握った拳に自らの手をそっと重ねてきた。

「っ、ちょ」
「自分で聞いといて照れちゃうんスね」
「っ照れてねーよ」
「はいはい、そっスか」
「うっざ」

黄瀬の手が優しく私の手を包み込んで、反抗的な態度を取りつつも私はそれを受け入れていた。黄瀬の手は大きいから、包容力もその分あってなんだか安心出来る。同時にドキドキもしてるから、不思議な感覚だけど。

黄瀬と手を繋ぎながら電車に揺られていると、あっという間に最寄りに着いた。電車を降りて改札を出ると、夜風が髪を煽った。もう、結構な時間だ。

「…帰ろっか」
「うん」
「送る」
「…ありがとう」

いい、と言ったところで、こいつが食い下がるわけはない。だったら素直に応じた方が早い。私に合わせて小股で歩いてくれる黄瀬に、心のなかでお礼を言いつつ自宅へと進む。…今日は、随分本心をぶっちゃけてしまった。今思い出すと恥ずかしくてとてもじゃないが黄瀬を見れない。ドキドキしてる、とか、何本人に言ってんだ私。

「…ね、菜緒」
「な、何」
「疲れた?随分歩かせちゃったっスけど」
「ちょっと。でも楽しかったよ」
「…そ」

ぎゅ、と、黄瀬が手に力を込めた。どうしたんだろうと思いつつ、私もそれに応える。

「……期待、」
「え」
「…いいんスよね?しても」

期待、とは、もちろん私の発言についてだろう。そりゃそうだ。意識してるとかドキドキしてるとか、そんなの好きって言ってるようなもんだし。でも、まだ、好きっていえるような段階ではない。私の中で黄瀬はどんどん大きくなってて、黄瀬のことが日に日に大切になっていく。でもまだこれは、恋と呼ぶには不確かで。

「……ん」

黄瀬のこと、ちゃんと好きになったわけでは、まだない。でも、これだけ意識してるんだもん。ただの友達でないことは確かだ。黄瀬の質問に肯定で返すと、そ、とまた短く返ってきた。明るい真ん丸な月が、私たちを照らしていた。

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