「おー…近くで見ると結構でかいっスね」
「…ん」

観覧車のすぐ下まで行くと、見上げながら感心したように黄瀬が呟いた。…なんか黄瀬が見上げる構図って珍しい。ばかでかいしなこいつ。
空いていたため待つこともなくすぐに乗り込み、他愛のない話をしているとゆっくりと上昇していく観覧車。夜景が綺麗に辺りを染めて、思わず目を奪われた。

「…菜緒」
「、なに」

名前を呼ばれ夜景から視線を離し目を向けると、黄瀬は僅かに口角を上げ私の隣に移動した。

「ちょ、何」
「…聞きたいことあるんスけど」

聞きたい、という割には随分と高圧的な態度の黄瀬。後退りすればその度迫られ、とうとう端に追いやられてしまった。後がなくなって焦る私に更に追い討ちをかけるように黄瀬が顔の横に手をつく。どんどん近付いてくる顔に、思わず目を瞑った。

「菜緒、」
「や、」

額、瞼、頬、鼻、順々にゆっくりと口付けられ、最後に唇を一舐めされる。黄瀬の息遣いを間近で感じて、瞬く間に顔に熱が集中した。見なくたってわかる、今私は、顔が真っ赤だ。嫌だ、こんな、私ばっかり。ゆっくりと目を開けるとやはり黄瀬は涼しい顔をしている。私だけが、余裕ないみたいじゃんか。

「や、め」
「やめねーよ」
「ちょ、おま、まじでやめろ」
「やめねーっつってんだろ」

私の抵抗なんて黄瀬には何でもなくて。こんな密室で、逃げ場なんてなくて、ついには視界まで歪んできて。そして何より問題なのは、この胸の鼓動は焦りからくるものではないということ。これは所謂、トキメキとか、そういうやつなのだ。

「待っ、」
「待たない」
「な、んで」
「…菜緒が可愛すぎるのが悪い」
「おま、バカじゃねーの、っ」

口では強気なフリをしてても、顔や動作には素直な感情が表れる。顔は自分でも驚くほど熱くて、目には涙が溜まっていて。黄瀬の胸に手をついて抵抗しようとするも、その手に力は入らなくて。黄瀬に舐められて湿った唇がどんどん乾いていく。私はどうしようもなく焦っていて、そしてそれ以上に、胸を高鳴らせている。

「…そうやって涙目になるのとか、反則だから」
「なっ、てない」
「キャパ越えるとすぐ真っ赤になって、涙ぐんで上目遣いしてきたりとか、煽ってるとしか思えねー」
「っ、んなこと、してなっ」
「してるっつーの」

はあ、と深く溜め息を吐いて、迫るのをやめて私を抱き締める黄瀬。バカじゃないの、上目遣いとか、そんなん身長差じゃん。まじでバカだろ、そんなんで、煽られる、とか。そういう意味わかんないこと言うから、また私が紅潮するんじゃん。
本当に、バカだ。こいつも、私も。

×