お互い必死に熱を冷まして、ウィンドウショッピングに意識を向けた。黄瀬が服を見立ててくれたり可愛いアクセサリーを一緒に見てくれたりしたけど、結局何も買わず。下手に買うと荷物になるし、また払うとか言い出しそうだから。
いろんな店を見て、そろそろ入るところもなくなってきた時。

「…ね、あんたさ、お金余裕ある?」
「?あるけど」
「ちょっとこれから行きたいところあんだけど、いい?」
「うん」

手を引かれるがまま連れていかれた場所は駅で、そのまま私たちは電車に乗った。目的地に着くまで少し時間がかかるらしく、ヒールで立ちっぱは疲れるっしょ?と黄瀬は私を座らせてくれた。…座ると身長差がえらいことになるから首痛いんだけど。2駅くらい乗っていると隣が空いて、黄瀬がそこに腰掛ける。当然のように手を絡めてきて、掌が一気に熱を帯びた。

「…何、あんた」
「ん?」
「…手」
「ああ、いーじゃないスか」

よくねーよ、と吐き捨てつつ、その手を振り解くことはしない私。…だめだ、完全に流されてる。冷房の効いた車内で、黄瀬と触れている部分だけが妙に熱い。黄瀬のごつごつした大きな手が、すっぽりと私の手を包み込んだ。
黄瀬のさらさらの前髪が、冷房の風でふわりと靡く。瞬きするたび揺れる睫毛や、緩く閉じられた薄い唇。その全てが綺麗で、悔しいことに目を逸らせない自分がいた。

「…あんたこそ何スか」
「!う、るさい」
「見とれるとか、何を今更」
「…バカじゃんあんた」

どんだけ自分に自信あんだよこいつ。整った容姿もほんと台無しだよなあ、と小さく溜め息をつくと、黄瀬は絡めた指で私の手を愛でるように撫でた。

「今、恋人同士に見えてるっスよ、俺ら」
「っ…」

どこか色気を孕んだその声や手つきが、私の羞恥心を刺激する。ったく、わざとこういうことしてきやがるあたり、こいつホントに性格歪んでる。だいたい食事する場所に気を使うくらいなら手なんか繋ぐなっつーの!

黄瀬の一挙一動に振り回されつつしばらく電車に乗っていると、目的地に着いたらしく電車を降りた。改札を出て少し歩いて、着いた先は海の見える公園。

「…ここ?」
「ん。綺麗っしょ」
「うん」

黄瀬に手を引かれ、海の近くまで足を運ぶ。暗くなり始めた空が水面に映って、深い青に染まっていた。

「デートスポットで有名なんスよ、ここ」

私の頬を滑るように撫でる黄瀬は、含み笑いを浮かべながらそう言った。…確かに周りカップルだらけだけど、何でそういう、意識させるようなことばっか言うの。
…なんだか今日は、おかしい。今日というか、こないだから、ずっと。緊張とか、胸の鼓動とか、今まで黄瀬に感じてなかったものを感じるのだ。
その理由を考えようとして、やめた。

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