「今回は随分頑張ったみたいだな、小宮」

武内から返されたテストは、前回の得点を大きく上回っていた。黄瀬に教えてもらったところが驚くほど出題されたのだ。出るとこ大体わかるとは言ってたけど、この当たりようは尋常じゃないのではと思う。

「小宮さん頭いいねえ」
「や、今回は結構頑張ったからだよ」
「頑張ってたよね、ずーっと黄瀬くんと勉強してたもんね」

「…って言われたんだけど」
「事実じゃないスか」

放課後、久々に踊り場で黄瀬と話す。テストが終わり黄瀬は部活が始まったので、二人で帰ることはなくなった。その分毎日昼休みや放課後に呼び出され、こうして僅かな時間を共に過ごしているわけだが。

「いや事実だけどさ…なんかやだ」
「つーか俺のおかげで点数上がったんしょ?むしろ感謝してほしいくらいっスわ」
「…感謝は、してるけど」

点数が上がったのは間違いなく黄瀬のおかげ。それは確かにありがとうだ、うん。けどその段々近付いてくる顔はいただけない!黄瀬の胸に手をついて抵抗するも、そんなものは無意味であっという間に壁際に追い詰められる。

「ちょ、何」
「お礼は?」
「は」
「俺のおかげで上がったんだから、ほら」
「…ありがと?」
「んー、そうじゃなくて」

伏し目がちな瞳で私の手を見つめ、それを取るとそのまま自分の顔の高さまで持ち上げた黄瀬。何をするのかと考える暇もなく、私の指先に黄瀬の唇が触れた。驚いて反射的に手を引っ込めようとするも、力で敵うはずもなくその手を強く握られる。軽く舌打ちして黄瀬を睨めば、それはそれは楽しそうな笑みを浮かべたまま私の耳元に唇を寄せた。

「お礼デート、しよ」
「…は」

予想外の一言に呆けていると、隙を見た黄瀬が私の耳にそのまま口付けた。身体を変な感覚が駆け抜け身を捩るが、もちろん敵うわけはなかった。どんなに抵抗しても黄瀬の身体はびくともせず、むしろ着々と近付いている。鼻と鼻が触れそうな距離で私を見つめる黄瀬に、悔しいが慌ててしまう。

「ちょ、離れ、ろっ!」
「じゃあデートする?」
「っ、わかった、するから!するから離れろ!」
「ん、りょーかいっス」

私がデートを承諾した途端、あんなに迫ってきてたのが嘘のように簡単に身を離した黄瀬。取り乱す私とは対照的に余裕綽々なその態度に腹が立ってやっぱ無し、と言おうとすればそれよりも先に黄瀬の手が唇に触れ、口を開くことすら出来なくなってしまった。

「んじゃ、楽しみにしてるっス」
「っ、ふざけんなくそが」
「はいはい、じゃ部活行ってくるっスね」

手をひらひらと左右に降って、奴は階段を降りていった。くっそ、なんでオッケーしたんだ私。黄瀬の大層愉快そうな笑みが目に焼き付いて、なんだか負けたような気がして、唇を噛み締めた。

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