「涼太、日曜デートしない?」
「や、日曜は部活なんスよ。つーかまずデートもしないっス」

放課後勉強しよとメールをもらい図書室に来てみれば、呼び出した張本人の黄瀬がお誘いを受けていた。ちらりと黄瀬を盗み見るとへらりと笑ってはいるものの相当不機嫌そうで、これはむしろ女の子に同情してしまう。が、女の子もそこでは食い下がらなかった。

「何で?最近全然遊んでくれないし、涼太が足りないんだけど私」
「ごめんね。けど今後何回誘われてもデートとかしないんで」
「…じゃあ、デートはいいからここでヤろーよ」

う、わ、ちょっと待てよふざけんなよ。こんなとこで始められたら、私はどうすればいいんだ。こんなド直球で誘ってる場面なんか初めて見たから関係ないのに私が動揺してしまう。それに反して黄瀬は先程の薄っぺらい笑みを消し、イライラを隠すことなく顔に出した。

「しつこいっスね。デートもしねーしヤんねーよ。さっさと出てってくんないっスか」
「何でよ!前もここでしたじゃん!その時はノリノリだったくせに!」
「あー、そうだっけ?ごめん、いちいち覚えてねっスわ」

…最低だ。さすが黄瀬。ここからじゃ見えないけど、相手の女の子どういう反応してるのかな。落ち込むかキレるかだろうがやはり後者で、女の子はさっきにも増して声を荒らげる。そのまま問答を繰り返し、最終的に女の子は出ていった。あー、隠れといてよかった。見られたらたぶん呼び出しくらうわ。

「…やなとこ見られちゃったっスね」
「やっぱ気付いてたか」
「当然」

まあ気付いてないわけないとは思ってましたけど。隠れていた本棚の影から顔を出し、黄瀬の元に歩みを進める。さっきまでの冷たい顔から、薄く笑う表情に変わっていた。どっちが素なんだか。突き指大丈夫スか?と言いながら黄瀬が手近な椅子に腰を下ろし、大丈夫と答えて私もその隣に座った。手当してくれてありがとうと告げて鞄から勉強道具を引っ張り出し、机に陳列させる。

「……なんも言わないんスね、さっきの」
「…最低だなーとは思ったけど」
「うっわ、わかってはいたけど結構くるっスねそれ」

わかってたんかい。黄瀬は苦笑を浮かべながら、自分も勉強道具を出した。袖を折ったワイシャツから覗く逞しい腕や、ごつごつした手、長い指。腕一本でこれだけかっこいい要素を持ってるなんて、そりゃ女の子も落ちるか。黄瀬の腕の動きを目で追っていると、ふっと、息を溢して奴は笑った。見とれた?なんて言うからむかついて肩パンしてやれば、いって!と全然痛くなんかなさそうな声が返ってきた。うぜ。

「…ほんとチャラ男だよねあんた」
「いやいや前までの話っしょ。今もちゃんと断ったじゃないスか」
「図書室でヤるとかありえないから」
「……若気の至りっスよ。実際もう随分ご無沙汰っスから」

あんたの性事情なんか知るかよ。そう言って日本史のノートを広げれば、誰のせいだよなんて呟かれたからスルーしてやった。…私と関わってから控えてるみたいだから私は関係してるんだろうけど、でも私のせいではないだろ。実際に致すかどうかは黄瀬次第だし、溜まってるなら勝手にすればいい。

「…ま、誘われてもそういう気分になれねーんスよ」
「ふーん」
「仮にヤったところで、たぶん相手とあんた重ねちゃうし」
「サイテー」
「それだけ惚れてるんス」

あっそ、とだけ返して教科書も開き、本文を黙読する。冷静なフリをしてみても、多少なり動揺していることはきっと黄瀬にはお見通しだ。黄瀬と違って同じ相手にこう何度も告白された経験がないから、どうしていいのかわからない。耳にかけていた髪を下ろして、こちらの表情を窺われぬよう隠した。

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