とは言ったものの、俺はいったいどうすればいいのか。

「黄瀬くんかっこいー!」

隣のクラスと合同でやる体育の時間。女子の隣のコートでバスケをやることになり、俺の出番になると当然女子が騒ぐわけで。めんどくせーなと内心溜め息を吐きながら笑顔を向ければ、バカみたいに女共は盛り上がった。こんな作り笑いでも喜ぶとか、お前らほんと頭悪いんだな。
バカ共から少し離れたところで、座り込む小宮に視線を送る。ないのはやる気なのか元気なのかは知らないが、膝を抱えて地面をひらすら見つめていた。

コートから出て汗を拭う。付き纏う湿気と暑さが不愉快で、体育着の袖を捲ると再び女が騒ぎだした。うっせーな、黙ってらんねーのかよ。

「……」

昨日、小宮に盛大な告白をかました後、俺はすぐに彼女の家から退散した。元々長居する気はなかったし、あのままいたら、その、いろいろとヤバかったから。初めて上がった小宮の部屋は当たり前だが彼女の匂いでいっぱいで、しかもすぐ後ろにはベッドがあって。さすがに手を出すことはしなかったが、あの場に居続けることは俺には耐え難かった。

嗚咽を溢して泣く小宮を撫でながら、俺は自分の体温が下がるのを感じた。彼女が元彼にされたと言っていることは、俺にも経験のあることばかりだったから。そもそも彼女を暇潰しとして扱っていたこともそうだ。俺が小宮にそれを言う度、小宮は傷ついていたのだろう。あいつのことを思い出して。自分の行動の愚かさを呪う。
そんなに傷つけられて、何故小宮はあの男のことが好きなのか。俺にしろとは言わないと言いはしたが、言わないだけでそう思っていることは事実だ。俺は彼女に、そんな思いさせないのに。
襟元で顔の汗を拭いながら小宮を見ていると、試合が回ってきたのか友人に呼ばれ慌ててコートに入っていった。試合が始まりボールがコート内を駆け回る。どうやら集中しきれない様子の彼女を見て、危ないなと思った矢先。

「いった…!」

小宮が渡ったボールを取り損ね、手を押さえて顔をしかめた。あーあ、言わんこっちゃねー。試合を中断して女子たちが寄る中、俺の身体もそこへ向かっていた。

「センセー、俺が保健室連れてくっス」
「え、ちょ、黄瀬」
「いーから」

突然現れた俺に彼女は驚いた様子だったが、有無を言わさず手を取れば騒ぐのは得策でないと思ったのか黙って俺についてきた。

「っ、」
「ちょっと痛いかもっスけど、我慢っスよ」
「ん…」
「……」
「……」

沈黙が二人を包む。氷を押しあてながらちらりと小宮を盗み見ると、彼女は俯いてなるべくこちらを見ないようにしていた。…昨日のことを、気にしているのだろう。俺の気持ちに応えられないことに、そのくせ俺に頼っていることに、罪悪感を抱いているだろうから。

「…あのさ、別に気遣わなくていーから」
「え」
「あんた真面目だからいろいろ考えちまうんだろーけど、そんなんいっスよ。気遣われるために告白したんじゃねーし」
「…黄瀬のくせに」
「なんスかそれ」

ぽつりと呟いて、そっぽを向いてしまった小宮。彼女なりの照れ隠しであろうそれは、俺にとっては可愛いと感じる要因で。少しだけいつもの調子の戻ってきた彼女に笑いかければ、こっち見んなと顔を押さえられた。

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