「…で?さっさと出てきたらどうスか」

リビングに電気がついたことを確認してから、塀の影に向かって言い放った。

「何、気付いてたわけ」
「たりめーじゃないスか。この前もいたっスもんね」

俺の言葉に反応し、隠していた身を露にした男。海常の制服ではないから、他校の生徒か。
前に小宮と帰った時も、この男があとをつけてきていた。何の脈絡もなく小宮の肩を抱いたのはそのためだ。俺のものではないにしろ、一応、牽制のつもり。さっき小宮の額にキスをしたのも同様。…俺がしたかったというのもあるが、何よりこの男に見せつけるため。あまり、意味はなかったようだが。

「小宮になんか用スか」
「あんたこそ、菜緒になんか用?」
「…あんたにカンケーねえだろ」
「じゃああんたにも関係ねーよな」

…っくそ。ポケットの中で、わからないようにズボンの生地を握りしめた。こいつ、結構厄介なタイプだ。なんとなく俺に似ている気がする。小宮を名前で呼んでいることや余裕ぶった態度にイラつくが、表に出したら負けな気がしてあくまで平静を装う。

「…惚れてんスよ、小宮に」
「へえ」
「あんたは」
「俺はただの元彼、菜緒の」

元彼。別に彼氏がいたことに驚きはしないが、だからといっていい気はしなかった。まあ、俺も俺だしあまり言えた立場ではないが。他校ということは、中学の時のだろうか。高校に入ってから小宮に彼氏がいるなんて聞いたことなかったから、おそらくそうだろう。その元彼が、何故こんなところにいるのか。

「何、引きずってるわけ?」
「全然。むしろ引きずってるのは菜緒の方」
「…じゃあなんで小宮のことつけてんスか」
「…暇潰し?」

聞き慣れたその言葉ではあるが、沸々と怒りが込み上げてくるのがわかった。自分もつい最近まで小宮にそう言ってたくせに都合が良すぎるとも思うが、やはり惚れた女を他の男に暇潰しに使われちゃたまったモンじゃねえ。男に向かって足を進め、冷たい目で見下ろす。

「小宮になんかしたら、マジで潰すっスよ」
「は、やってみろよ」

へらりと薄っぺらい笑みを浮かべて、その場を去っていった元彼とやら。…ったく、なんつー厄介な男と付き合ってたんだよあの女。ポケットに突っ込みっぱなしだった手を出してみれば、じんわりと湿っていてそれにすら苛立った。…これから、気をつけねーと、な。

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