「昨日すっげーしつこくメールきてなかなか寝れなかったんスよね」
「ふーん」

昼休みに突如やってきた黄瀬にお弁当を強奪され、いつもの踊り場で二人昼食をとる。以前中庭で食べた時かなり目立ってしまっていたようなので、せめてものお願いで人気のないこの場所にしてもらったのだ。

「反応薄いっスねー」
「興味ないからね」

私の返答に苦笑を漏らしつつ、どうでもいい話をそのまま続ける黄瀬。ったく、コイツにメール送る子も送る子である。こんなんの一体どこがいいんだか。…コイツが愛情に飢えてることは確かだ。けど、黄瀬にも問題はあるんじゃないかと思ってきた。あんたがもっと誠実だったら寄ってくる子もそれ相応になるんじゃ…。

「……んー…無駄みたいっスね」
「は?」
「他の女の子の話して妬いてもらおうと思ったんスけど」
「妬かねーよばかじゃん」
「…じゃ、やっぱ強引にいくっスわ」
「っ、は、おま」

黄瀬に手を掴まれ、壁際に追いやられる。コイツと関わるようになってから、変な部分で耐性がついてしまった。追い詰められて焦りはするけど、あまり慌てたりはしない。なんだかんだで黄瀬は、無理矢理事を運んだりはしないから。

「…なんかあったの、あんた」
「なんでっスか」
「…勘」
「ふは、大した勘っスね」

掴まれた手首が解放され、代わりに指を絡めさせられる。伏し目がちな視線に捉えられ、見つめ返せばすっと目を逸らされた。…やっぱり、今日は何かおかしいらしい。

「……部活がちょっと、ね」
「部活?」
「最近調子悪くて。なんか思うようにいかねーんスわ」
「…それでへこんでんの?」
「…悪いかよ」
「別に。ちょっと意外だったけど」
「……初めてなんスよ、勝たせたいとか思うの」

俺のこと認めてくれた先輩たちのためにも、試合に勝って恩返ししたいんス。なんて言う黄瀬は、普段の姿からは想像もつかない凛々しい表情をしていた。…そんな顔するんだ、あんた。
黄瀬の頭に手を伸ばし、そっと撫でる。驚いて目を見開く黄瀬を見詰めて、口を開いた。

「バスケのことはわかんないけどさ、その気持ちがあれば充分だと思うよ」
「……」
「要はスランプでしょ?練習してればそのうち抜けるから大丈夫」

ん、と小さく声を漏らすと、黄瀬は俯いてそれ以上喋らなかった。昼休み終了のチャイムが鳴るのを、彼の頭を撫でながらぼんやりと聞いた。

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