「…は」

意味が、わからない。

私が好きだと、そう言った黄瀬の目は真剣そのものだった。なんで、暇潰しじゃなかったの。疑問しか浮かばなくて、どうしていいのかわからなくて、ただただ押し黙る。沈黙が気まずくて仕方ないけど、真面目な顔の黄瀬から目を逸らすことが出来なかった。逸らしてはいけないような気がしたのだ。

「…本気で言ってんの」
「わかってるくせに」
「…何で、私なの」
「あんたがいいからに決まってんじゃないスか」

答えになってねーよ、と精一杯吐き出すも声が掠れて上手く言えなかった。
黄瀬の目を見れば、本気か否かなんて火を見るより明らかだ。でも、その理由がわからない。私は黄瀬に好かれるようなことなんて何一つしてない。それがどうして、こうなった。

「…悪いけど、私黄瀬と付き合う気はないから」
「…そう言うと思ったっスわ」

私の顔の横についた手をどけ、溜め息混じりで呟く。威圧感から解放され反射的に緊張を解くと、切れ長の黄瀬の瞳に捉えられ再び身体が強張った。だめだ、コイツといるときに気を抜いちゃ終わりなんだった。

「いっスよ別に、付き合ってほしくて言ったんじゃねぇし」
「…じゃあ何、なんのつもり」
「んー…前言撤回、と、宣戦布告?」
「は?」

にやり、お得意の含み笑いを浮かべ真っ直ぐに私を見つめる黄瀬。両手をポケットに突っ込んで、いかにも余裕そうに振る舞うその姿に理不尽ながらも若干の苛立ちを覚えた。仮にも告白してるくせに、しかも断られてるくせに、なんでそんなどっしり構えてるわけ。ちょっとくらい照れたり焦ったりしろよ可愛げねーな。

「暇潰しっての、あれ取り消すっスわ」

いつかの放課後に言われた、ただの暇潰しという言葉。勝手につきまとわれてその上そんなこと言われて、あの時は本気でむかついたっけ。てか今考えてもないわ。黄瀬は懐かしむようにふっと笑い、再び真剣な表情に戻る。長い睫毛を瞬かせ、私を見据える。

「んで、こっからが本題」
「何」
「俺、これからは本気でいくんで」
「は?」

私の輪郭を撫でるように触れ、そのままそっと指を滑らせ顎を持ち上げる。強制的に上を向かされ黄瀬を睨むと、いかにも楽しげに口角を上げるものだから余計に腹が立った。だから、なんでそんな余裕そうなんだっつの。

「本気であんたのこと、落とすっつってんスよ」
「…あっそ」
「ほんっとにつれないっスね」
「…私はあんたには落ちない」

自信に満ちた瞳で私を見下ろす黄瀬を軽く睨む。黄瀬はそんな私ににやりと笑うと、背中を屈めて私に顔を近付けた。耳に、黄瀬の唇が触れる。

「んなこと言ってられんのも今のうちっスよ」

脳内に直接響くその声に、背筋がぞくりとした。前もこんなことがあった時ぞわっと鳥肌が立ったけど、それとはまた違う感覚。形容しがたいその感情は、背中を通って全身を支配した。

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