部屋に差し込む柔らかい朝日に目を覚ます。ゆっくりと身体を起こすと、ベッドに頭を預けた小宮がすやすやと寝息を立てていた。しかも俺は、しっかり小宮の手を握っていたのだ。サーっと血の気が引いていく。やべ、俺、もしかして…。体温が急激に下がる感覚を覚えるが、だんだんと昨日の記憶が甦ってきた。確か、小宮が見舞いに来たんだ。それでそのまま俺が寝て…うん、よし、オッケイ、ヤってないヤってない。
小宮の看病のおかげか、熱は綺麗に下がっていた。看病っつーか、ただメシ食わされただけだけど。

「…気持ちよさそ」

本当に気持ちよさそうに眠る小宮。温かくて俺より幾分小さい手をきゅっと握ると、ん、と消えそうな声を漏らした。…やべ、いろいろとくるなこれ。

昨日コイツは、俺に寂しいんじゃないのかと言った。期待が面倒だと思ったことはあるが、寂しさなんて感じたことはない、と思った。その時は。
俺でなく俺の才能を、俺の容姿を見ている周りの奴ら。そんなもんにはいつからか慣れてしまっていたが、俺を見てくれる奴はいないのかと思っていた時期もあった気がする。俺の運動能力や見た目でなく、俺を必要としてくれる奴はいないのか、と。もしかしたらあの時俺が感じていたものは、寂しさだったのかもしれない。

「…スゲーよ、あんた」

空いてる方の手で小宮の髪を撫でる。さらりと流れる髪に触れながら、自分でも聞き取れないくらいの声で小さく呟いた。
俺自身でもわからないような感情に気付いて、わざわざ家まで来て。昨日あんなこと言ったのに、よく普通に会いに来れるよな。

そもそも、体調を崩すということ自体バカだった。仕事や部活が忙しいからといって、体調管理くらい出来なくてどうする。昨日コイツにも言われたが、今後は気を付けなくては。
小宮に頭を撫でられた時、俺は柄にもなくドキッとしてしまった。同時に、心がとても安らいだ。小宮の手つきに、温もりに、ひどく安心したのだ。落とそうとしている女に、そんな感情を覚えるとは。

小宮が起きたら、礼を言わなくては。気恥ずかしい部分もあるが、今回ばかりは、感謝しなくてはいけない。小宮の寝顔を見つめながら、何と言うかを考えた。

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