あれ以来、黄瀬は寄り付いてこなくなった。私は、果たして彼に何かをしたのだろうか。別に黄瀬が来なくなったところで私は困らないが、あまりにもあからさまな変化にただ驚いた。

「最近来ないね、黄瀬くん」
「ねー。小宮さんもついに捨てられちゃったのかね」

…何も、私に聞こえる範囲内でそんな会話しなくても…。私が黄瀬に捨てられたという噂は、最早学年中に広まっていた。捨てるどころか好かれてるわけでもなかったし、私も別に恋愛感情は持ち合わせてなかったからその噂は100パーセント誤りである。少なからず不愉快ではあるものの、否定したところで何にもならないので特に触れてはいない。

「あとね、今告白ラッシュらしいよ」
「そりゃそうでしょー。小宮さんと噂なってから少し減ってたもんね」

そして、聞いての通り黄瀬は今告白されまくってるらしい。確かに私との交際疑惑が消えれば、女の子たちもそれを逃すわけはない。むしろ私のせいで我慢させてしまっていた女の子たちに申し訳ない。私のことなんか気にしないでばんばん告白してくれてよかったのに。

『黄瀬くんはみんなの物だから』

いつかファンの子に言われた言葉が頭をちらつく。みんなの物、とか言う割には、みんなガンガン告白するよなあ。その中に、黄瀬のことちゃんと見てあげてる子はいるのかな。そういう子を見つけられれば、きっと黄瀬はあんな表情を浮かべることはなくなるのに。…まあ、今となっては本当に関係ないことなんだけど。

はあ、と浅く溜め息を吐いて立ち上がり、下駄箱に向かう。こんなこと考えてたってどうしようもないし、もう別に関係ないしね。なんて考えながら階段を下り、靴を履き替え校舎を出る。そんなこと考えてないで、さっさと帰ろう。そう思ったちょうどその時、視界の端に揺れる金髪を捉えてしまった。

「なんスか?」
「あの、黄瀬くん…好きです」

え、こんなところで告白なんかするか普通。体育館の入口の、誰からでも見える場所で黄瀬に想いを告げる女の子。…なんでこっちが気を遣わなくちゃいけないんだ。反射で隠れちゃったじゃんか。

「あー…うん、ありがとっス。気持ちだけもらっとくっスわ」

あ、断るんだ。まあアイツがオッケーするはずないか。女の子のことあんま信用してないしね。それにしても、アイツにしては随分優しい断り方だな。もっとボロクソ言いそうな気もするけど。

「…じゃあ、一回でいいから、」
「あー…ごめん、そういうのも受け付けてないっス」
「…どうして?」

どうしてって、いやいや。あんたらはいったい何歳なんだ。
けど、女遊びが減ったという話は本当だったらしい。前までならこういう時、簡単に誘いに乗ってたはずだ。黄瀬がどう女遊びをしてたかは知らないけど、遊び人と言われるくらいなんだから誰の誘いも応じてたに決まってる。いったい、どうして遊ぶのをやめたのだろう。

「…好きな子、いるんスよ」

え。私が固まったのと同じように、女の子も返答が出来ないくらい固まってしまったらしかった。あの黄瀬に、好きな子、なんて。女のことなんて屁とも思ってない黄瀬が、恋をしてる、なんて。びっくりしすぎて、私は女の子が去ったあともしばらく動けなかった。

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