草木も眠る丑三つ時。私は眠ることが出来ずにいた。


「落ち着きなよ、寿乃ちゃん」
「はい…」


さっきから何度も近藤さんに同じことを言われ、同じ返事をする。けれど、やっぱり落ち着けなくて。
最近活動が活発化していた攘夷浪士のグループの幹部が、今夜とある酒屋にて会議を行うらしい。その情報を嗅ぎ付け、一番隊の選抜メンバー数人でそこへ向かうことになった(あまり大勢で行くと勘づかれて逃げられる可能性があるのだ)。隊長である総悟をはじめ、実力者たちが向かったわけだけど。


「寿乃ちゃんがそわそわしたところで何も変わらないんだから、だったら総悟たちを信じて待とうじゃないか」
「…はい」


常に死と隣り合わせのこの仕事。みんな覚悟は出来ているから、大丈夫だよだとか絶対帰ってくるよだとか、そんな下手な気休めは言わない。ただ信じて、帰りを待つのだ。


「……落ち着きたいんですけど、でもやっぱり、心配になっちゃって…」
「…」


総悟がそう簡単にやられるわけないのはわかってる。そもそも選ばれた実力者が行ったんだから、弱いわけないこともわかってる。けどやっぱり、不安になってしまって。


「…情けないです……全然、覚悟が足りない…」
「いや、心配するのは悪いことじゃないよ」
「いえ、……怖くて、たまらないんです」


みんなが……総悟が、死んじゃったら、どうしよう。このまま帰ってこなかったら、どうしよう。


「みんなのこと、総悟のこと、信じてるけど……もしものことを考えると、本当に怖くて」
「うん…」
「……総悟…」


体育座りの姿勢で膝に顔を埋めると、近藤さんに頭をポンと叩かれた。顔を上げると今度は少し荒く頭を撫でられる。


「寿乃ちゃんは、本当に総悟が大好きなんだな!」
「ちょ、こ、近藤さんっ!」
「総悟のことが好きなら、余計に信じてやれ。それが総悟の力になるから」
「……はい」


近藤さんの不器用な笑顔が、胸に染みた。
私は、もっと総悟を信じるべきなんだ。ドSだし(私に対して特に)意地悪だし毒舌だしひどいやつだけど、信頼は出来るもん。強いし、なんだかんだで優しいし、…かっこいい、し。…ってなに言ってんだ私!
自分で考えて恥ずかしくなっていると、廊下に一つの足音が響いた。


「近藤さーん、帰りやしたぜ」
「おお、総悟!」
「総悟っ!」
「あ?何で寿乃が…って、うおっ」


無事に帰ってきた総悟。何を言うでもなく、考えるよりも先に体が動いた。気付けば総悟にしがみついていて、視界がちょっとだけ歪んでいた。


「……攘夷浪士七人全員捕縛完了、隊士はちょいと怪我人が出やしたが、全員生きてまさァ」
「よし、ご苦労だったな総悟」
「へえ。……で、なんですか、これァ」
「ずっと総悟を心配してたんだぞ」


総悟の胸に顔を埋め、ひたすら存在を確かめた。大丈夫、総悟は、ここにいる。


「……よく見やがれブス、俺ァ無傷でさァ」
「…っ、ん」
「泣いてんじゃねえや、俺がそう簡単にやられるわけねえだろが」
「…ん、わかってる…」
「ならさっさと泣き止みやがれ。ブスの泣き顔なんざ醜くて見てられやしねェ」
「…っ、ごめ」


「…悪かったな、心配させて」


私の背中にそっと腕をまわし、小さな声で呟いた総悟。彼の行動に、言葉に、またうるっときてしまった。
おかえりなさい、総悟。

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