「ここ…」


総悟に連れてこられたのは、武州にある私たちの実家だった。幼少期を三人で過ごし、総悟たちが行ったあとはミツバさんと二人で暮らした、あの家。いわば、始まりの場所。


「なんで…」
「いいから黙りなせェ」


総悟が縁側に腰を下ろす。ウェディングドレスの裾を持ち上げて私も隣に腰を下ろすと、総悟は小さく溜め息を吐いてからぼそぼそと話し出した。


「はーあ、やっちまいやしたぜ」
「え?」
「寿乃なんかどうにでもなっちまえと思ってたんですがねィ」
「なにそれ!」
「…気付いたら、連れ去ってた」
「……バカだよ総悟、ほんとバカ」


この人は本当に、バカだと思う。何考えてるのか全然わかんないけど、でもいろんなこと考えてて。


「…寿乃が拾われてきた時は、厄介なモン連れてきちまいやがってと思ったんでさァ」
「え?」
「姉上は俺を育てるだけでも忙しいってのに、また負担増やして、ってな」
「…」


総悟の横顔は懐かしむように遠くを見ていて、そこから彼の心情は読み取れなくて。どうして今、そんな昔話をするのかがわからなくて続きを待った。


「いざ一緒に暮らしてみたらアホだわやかましいわで本当になんだこいつァと思ったもんでさァ」
「ちょっと!」
「鈍臭ェくせしてめげねェし、いつも負けるくせして俺に剣術挑んでくるし、どんなにおちょくってもすぐ笑顔になって俺んとこ寄ってくるし」
「…」
「俺のこと好きなのなんかバレバレだってのに、必死になってくっついてきやがって」
「…!」
「そんな姿見てたら、俺が守ってやんなきゃなんて、柄にもねぇこと思ったんでさァ」


茜色に染まり始めた空が総悟を照らす。その横顔があまりに綺麗で、見とれた。
総悟の口から、守るなんて言葉が出てくるなんて思わなかった。しかもそれが、私に向けられている。
総悟は徐に立ち上がって、私を見下ろした。西園寺さんから頂いた結婚指輪を私の指から抜き捨て、そのまま手を握る。いつも通り淡白な表情を浮かべる総悟の手は、いやに熱かった。


「俺に惚れてるくせに、他の男と一緒になんかなろうとしてんじゃねェや」
「…だ、だって…総悟が」


総悟が、あの時私をふったから。神楽ちゃんたちの前で、もらう気はないなんて言ったから。


「…俺も、土方さんと同じ穴の狢だったってことでさァ」
「え?」
「おめェが大事だからここに置いてった。おめェが大事だから、普通の野郎と幸せになってほしくてああ言った」
「総悟…」
「…全部、寿乃が好きだからでさァ」


私の目をしっかり見つめてそう言う総悟に、思わず涙が溢れた。熱い総悟の手が私の手をぎゅっと握って、私も震える手でそれを握り返して。


「俺と一緒になってくれやすか、寿乃」
「はい…!」


嬉しくて嬉しくて、溢れる涙を拭うことなく何度も頷いた。そんな私に呆れたように笑うと、総悟はそっと私を抱き寄せた。幸せすぎて、夢なんじゃないかとすら思ってしまう。あんなに求めていた総悟の温もりが、間近で感じられるなんて。


「ったく、無理矢理着飾っても泣いたらブス丸出しでさァ」
「ちょっとそれどういう意味!」
「そのままの意味でィ」
「…好きって言ったくせに」
「うるせぇや。ガキの頃から俺しか見てねぇくせによ」
「っ!」
「ま、俺も人のこた言えねーがな」


総悟が私から身体を離して、そっと涙を拭う。普段からは想像もつかない優しい手つきに、ぎゅっと胸が締め付けられた。
ドSで横暴でとても隊長になんか見えないけれど、でも優しくて、温かくて、とても大切な人。そんな人だから、好きになった。総悟だから、ずーっと好きでいたんだ。


「さ、姉上に報告に行くか」
「え?」
「時間はかかったが、しっかり結ばれましたってよ」
「…うん!」


珍しく優しく笑う総悟の手をとって、ウェディングドレスが汚れないようたくしあげながら立ち上がる。その瞬間、強く腕を引かれ身体が前のめりになった。


「!」


合わせられた唇から伝わる熱は、どんどん私を侵していく。この上ない幸福感に包まれ、私はそっと目を閉じた。

大好きなこの人と、生きていこう。そう心に強く誓った。

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