ふらりと町をぶらつくと、自然と行き着いてしまった甘味屋。以前総悟と来たところだ。あの時は総悟の優しさがほんとに嬉しかったっけなあ。…いつだって、総悟は優しかった、な。


「あれ、寿乃じゃん」
「銀さん」


外の長椅子にふんぞり返る銀さんは、いつものように団子を頬張っていた。このふわふわ銀髪を見るのも久しぶりだ。隣に腰を下ろして私も同じ団子を注文する。


「…なんかあった?」
「え?」
「元気ねーから」
「そう…ですかね」
「おー」


まだ会って全然経ってないのに。こんなにも早く見抜かれてしまったことを情けなく感じる。私はいくつになってもすぐ顔に出るんだ…。


「抱えたっていいことねーぜ?十何年しか生きてねー奴が必死こいて悩んだって答えなんか出やしねーよ」
「…でも、人に話したところで…」
「ごちゃごちゃ考えんな。オッサンがなんのために長く生きてると思ってんだよ、若人に道を諭してやんねーでどうすんだ」
「若人って…」


思わず笑みがこぼれてしまった。それを見て安堵したように頭に手を置いてくる銀さんに、ぽつりぽつりと昨日の出来事を話し始めた。




「ただ寿乃さんを…好きなだけです」


どう見ても快くは思われてないこの状況で、みんなの前で私に改めて告白をしてのけた西園寺さん。近藤さんも土方さんも総悟も、もちろん私も完全に固まった。


「失礼ですが、真選組は今金欠状態と伺っています。もしこの求婚を受けてもらえましたら、西園寺家は多少なり真選組に投資させていただこうと考えています」
「…それは寿乃を、金で買うってことか?」
「まさか!あくまで謝礼です」


提示された金額を見て、目が点になった。あれだけの額があればしばらくは真選組もお金に困らなくて済む。いつかのように土方さんが食堂で頭を悩ませたりすることもなくなるわけだ。


「…けど、寿乃だって大事な隊士なんだ。抜けさせるわけには…」
「いえ、寿乃さんが希望なさるなら、真選組の仕事を続行していただいて構いません」
「え…いいんですか?」
「近藤さんたちは田舎からの家族同然の付き合いだと聞いています。急に引き離されるのは寂しいかと思いますので。寿乃さんの望むようにしてください」







「…それでお前は悩んでんのか」
「私の返答次第で真選組の事情も大きく変わりますから、そりゃあ」


もちろん私だって女の子だし、自分で選んだ人と結婚したいに決まってる。けど、真選組に入ることを決めた時点で、女だからなんて甘い考えは通用しないと知っていた。女といえど隊士、真選組のため自らを犠牲にするくらい、出来て当然なのに。


「まあ、確かにおめーらにとっちゃ悪い話じゃねーわな。寿乃は真選組に居続けられるし、金は入るし」
「…やっぱり、そうですよね」


私がプロポーズを受ければ、みんな幸せになれるんだ。誰も傷つくことなく。私だって、あんなに私なんかを想ってくれる人と一緒になれるんだから、幸せなことこの上ないじゃないか。関わった時間が短くても伝わる。西園寺さんは、きっと私を大切にしてくれるだろう。…わかってる、のに。


「…沖田くんはどーしてんの」
「…どうもしないです」


西園寺さんとのことを考えれば考えるほど、頭に浮かぶのは総悟の姿だった。…未練がましいことは重々承知してる。私はまだ、総悟が好きだ。


「…ごめんなさい、いろいろ吐き出しちゃって」
「…ごめんじゃないだろここは」
「、ありがとうございます」


なるべく笑ってそう言うと、帰るかな、と呟いて銀さんはのそりと腰を上げた。払っといてと渡されたお金は、一人分にしては少し多い。


「ぎ、銀さん!お金…!」
「あー、俺の貴重な金だからな、しっかり味わえよ」
「そんな、悪いです!話も聞いてもらったのに…」
「いーから、たまにはオッサンにもカッコつけさせろって」


振り返ることなくスタスタと歩いていく銀さんと手のひらのお金を交互に見て、ぺこりと頭を下げた。ありがとう、銀さん。


「たくさん悩めよ、少年少女」


銀さんがぼそりと呟いたその一人言は、誰に届くこともなくふわふわと消えていった。

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