「…すいやせん、ちょっと邪魔しまさァ」


そう言って総悟は近藤さんに視線を向けた。私も西園寺さんも当然総悟を見てるわけだけど、目が合う気配は全くなかった。私の隣に座る近藤さんを見る総悟の目線はブレない。…考えすぎなのはわかってるけど、私を見ないようにしてるような、そんな気がした。


「近藤さん、土方さんがもうすぐ着くらしいんだが…土方さん必要ですかィ、これ」
「土方さん?」
「いやな、寿乃ちゃんがなんかやらかしたのかと思ってトシにフォローさせようと思ってたんだが…」
「オイ寿乃!!なにやらかしたんだてめェ!!」
「あ、来た」


噂をすればなんとやら、汗を流した土方さんが文字通りすっ飛んできた。だから私なんもしてないですってば…!


「違うんだトシ、寿乃ちゃんは何もしてなくてだな」
「あ?」
「寿乃がいっちょ前に求婚されたんでさァ」


──求婚。その言葉が総悟の口から出たことが、なんだかとても嫌だった。
好きだった、とは言ったものの、そう簡単にこの数年来の想いが消えてくれるはずもなく。総悟を好きな気持ちは、微塵も薄れることはなかった。


「…求婚の理由は?」
「はい?」


土方さんが徐に口を開いた。求婚の理由、って…。西園寺さんは困ったような表情を浮かべる。


「おいトシ、何を…」
「隊士やその身内の縁者になって真選組をどうこうしようって輩は少なくないんでな。それなりの理由は言ってもらう」
「まあ、もっともですねィ」


なるほど。そんな考え方があったのか。確かにミツバさんの時もそうだったし、純粋な気持ちで真選組に近付く人は少ないのかもしれない。わざわざ私に求婚なんて、西園寺さんも何か企ててる可能性は十分にある。もしそうなら大問題だ。みんな揃って西園寺さんを見る。


「…男性ばかりの中女性一人で頑張る寿乃さんを見ていたら、いつの間にか寿乃さんのことを目で追うようになっていまして」
「…」
「変な目論見などありません。ただ寿乃さんを、好きなだけです」


私を真っ直ぐ見つめて言う西園寺さんに、どうしていいのかわからなくなった。


この時、土方さん並みに瞳孔の開いた総悟が西園寺さんを睨みつけていたことを、私は知らない。

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