朝起きると、障子に手紙が挟まっていた。齊藤さんからで、内容は話があるから三時に屯所の門で待ってる、というもの。不安だったら誰か連れてきてもいいから、とにかく来てほしいとも書いてあった。
「どうしよう…」
怖くないわけはない。正直、もう齊藤さんとは顔も合わせたくないのが本音だった。けど、ここまで言ってくるんだからきっと何か伝えたいんだよね…。
すっぽかすわけにもいかないけど、でもやっぱり怖い。悩んでいる間に時間は過ぎて、気付けばとっくに三時をまわっていた。
「…よし、行こう」
うじうじしてても仕方ない。逃げてたってしょうがない、よね。震える手をぎゅっと握りしめ、門へと足を向けた。
「寿乃ちゃん」
「…すいません、遅くなって」
「いや、こっちこそ急に呼び出してごめん」
沈黙が流れる。…やっぱり、一対一はちょっと怖い。齊藤さんは、何をする気なんだろう。何を言おうとしてるんだろう。恐る恐る顔を見上げると、彼は静かに口を開いた。
「この前は、ごめん」
この前。記憶が鮮明に蘇ってきて、手が震えた。ダメだ、ちゃんと謝ってくれてるんだから、私もちゃんと聞かなくちゃ。
「こんなこと言う資格ないのはわかってるけど、俺寿乃ちゃんが好きなんだ」
「え…」
齊藤さんの突然の告白に、頭が真っ白になった。そんな、なんで、いきなり…。
齊藤さんの目は真剣そのもので、冗談を言っているわけではなさそうだった。真っ直ぐに私を見据える齊藤さんにだんだん頬が熱くなってくる。告白されるのって、こんなに恥ずかしいものなんだ。
けど、私が好きなのは…
「…ごめんなさい…齊藤さんの気持ちには…応えられない、です」
「…うん。わかってる」
「…」
「寿乃ちゃんが誰を見てるかもわかってるから、手に入らないならって、思って…。本当にごめん」
「…」
「頑張ってね、沖田隊長のこと」
「…はい」
齊藤さんは静かに笑って、屯所の中に入っていった。気付いてたんだ、私が総悟を好きなこと…。
私が総悟を大好きなように、齊藤さんも私を想ってくれてたんだ。申し訳ない気持ちでいっぱいになる。けど私は、やっぱり総悟じゃなきゃ嫌なんだ。
「んなとこで何突っ立ってやがんでィ」
「わ!総悟っ」
一人立ち尽くしていると、いつの間にやら後ろにいた総悟がかったるそうに声をかけてきた。な、なんつータイミング…!
「い、今のやり取り聞いてないよね?」
「あ?誰かと話してたのか?」
「ならいいや…なんでもない」
なんでィ、と不可解そうな表情を浮かべる総悟。いや聞かれてたら相当マズかったからねよかった全部が済んでからで。ほっと一息ついて、総悟を見上げる。
「あのね、総悟」
「?」
「私はもう、大丈夫だから」
「…」
「いろいろ気にかけてくれてありがとね。もう平気だから、心配しないで」
「…おう」
にこりと笑ってそう言えば、総悟は優しく頭を撫でてくれた。本当に、いろいろありがとう。