一睡もすることなく朝を迎えた。徹夜明けにゃちと厳しい煌々とした朝日を見つめていると、障子の向こうから「ん…」と声が漏れた。寿乃が、目を覚ましたらしい。
「起きたか」
「総悟…」
寝起きということもあるだろうが、寿乃の声はどこか元気がなかった。まァ、そりゃそうもなるだろうが。
昨日寿乃は、齊藤に襲われた。前から寿乃に気があるのは丸出しだったし、気にはかけてた。が、まさかこんな手段に出やがるたァ思わなかった。俺が昨日見廻り当番じゃなければ、いつも通り寿乃の風呂の見張りして、自室まで送っていってやれてれば。仕方のないことだが、考えずにはいられなかった。
「…土方コノヤローに、非番にしてもらっといた」
「え?」
明け方、偶然近くを通った土方さんに寿乃を非番にしてくれるよう頼んだ。当然何故かと問われたが、むやみに他言しても寿乃が困るだろうと思い黙って頭を下げると、空気を読んだ土方さんは納得出来ないといった表情を浮かべながらも許可を出してくれた。
「さっそく今日顔合わすのァ無理だろ。今日一日で気持ち整理しとけ」
「総悟…」
あの半ストーカー野郎も給仕係。あんなことがあってすぐ奴と一緒に仕事出来るほど、寿乃は器用な奴じゃねェ。下手に仕事やらせるより、今日は休ませんのが得策だ。
「…本当に、ありがとうね。総悟」
「…じゃあ俺ァ仕事行ってくらァ」
「うん。行ってらっしゃい」
送り出しの言葉に重い腰をゆっくりと上げ、寿乃の部屋から立ち去る。…これから行くところは、一つ。
「おい」
厨房に行くと、齊藤が平然と朝食を作ってやがった。あんなことしといてよく来れたもんだ。寿乃が来たらどうするつもりだったんでィ。
「…はい」
「ちょっとツラ貸しなァ」
齊藤は無言で作りかけの朝食を置き、俺の後をついてくる。奴の顔を見れば見るほど、昨夜のことが思い出されて胸くそ悪ィ気分になった。寿乃は今後コイツを見るたびに、昨日の恐怖を思い出すハメになるのだろう。そう考えると苛立ちが募った。
齊藤を連れ屯所の裏に来ると、俺は野郎に向き直った。明らかにバツが悪そうな表情を浮かべた奴の顔を、まず一発、ぶん殴る。
「っ…」
「テメー、自分が何したかわかってんのか」
「…」
齊藤は、地面を見つめたまま答えない。その態度に苛立ち、奴の胸倉を掴む。ふざけやがってこの野郎。たたっ斬ってやりたい衝動に駆られながらも、必死に抑え奴を睨む。
「いいか、二度と寿乃に近付くな」
そう吐き捨て、奴の胸倉を少々乱暴に離した。反動で地面に尻餅をつく齊藤。最後に奴をもう一睨みし、背を向ける。
「…好きなんですか」
「…あァ?」
「彼女のこと、好きなんですか。沖田隊長は」
立ち去ろうとした途端、今までずっとだんまりだった齊藤が口を開いた。
「…テメーにゃ関係ねェ」
「俺は、好きです」
真っ直ぐに俺を見据えて言う齊藤に、何かが切れた音が聞こえた。
「どのツラ下げて言ってやがる、寿乃にとんでもねェトラウマ植え付けやがって!!」
「…、」
「おい、よく聞け下衆野郎」
しゃがみ込む齊藤と同じ目線になるよう俺もしゃがみ、再び胸倉を掴む。
「今度寿乃に手ェ出してみろ。俺ァ本当に、テメーを殺す」
それだけ告げて手を離し、俺は屯所内へと引き返した。
くそっ…むしゃくしゃする。