「寿乃を放せ」


総悟の低い声が、辺りに響く。こんな声、聞いたことない。


「放せっつってんだ!!」


齊藤さんの肩がびくりと跳ねて、ゆっくりと私の腕を解放した。すぐに彼から身を離し、震える足で総悟の元へ駆け寄る。


「…消えな」


総悟が静かにそう言うと、齊藤さんはこちらを見ることなく去っていった。
涙がボロボロこぼれ落ちる。総悟が来てくれなかったら私、どうなってたんだろう。


「ご、ごめん、総悟…っ、あり、がとう」
「…近藤さんか土方さんは」
「松平さん、が、いらしてて」
「……悪かった、寿乃、ごめん」


呟くようにそう言った総悟は、優しく私を抱きしめた。総悟は悪くない、そう言いたかったけど、嗚咽がひどくて言葉にならなかった。総悟の匂いが、温もりが、私を包む。背中をそっとさすってくれる総悟に、また涙が出てしまう。総悟の隊服の裾を掴み、総悟の胸で、泣いた。




「歩けるか?」
「うん…ごめんね」
「何謝ってんでィ。いいから、部屋行くぞ」
「うん…」


しばらく泣いて落ち着くと、体を離した総悟が優しい声で尋ねた。総悟に手を引かれ自室へと向かう。…総悟の手が、あったかい。



「今夜はここにいるから、安心して寝なせェ」
「え…そんな、いいよ、悪いから」


自室に着くと総悟は布団を敷いてくれ、私を横にならせた。私の頭をそっと撫でたあと、障子の外に立ってそう言う総悟。そんなの、さすがに申し訳ない。


「あんなことがあった直後に一人でいれんのかよオメーは。いいから寝てろ」
「私なら、気にしなくて大丈夫だから…」
「うるせェ、こんな時にまで気ィ使ってんじゃねーや」


…これはきっと、引き下がってはくれない、よね。大人しく甘えさせてもらおうと反論をやめる。実際、一人で安心して寝られるわけがない。誰かにいてほしいのは確かだった。けど…


「そこじゃ冷えるでしょ?中にいなよ」
「俺がいちゃ安心出来ねーだろィ」
「なんで…?そんなこと、」
「俺だって男でィ。オメー襲ったあのバカと同じな」
「…っ」
「…ま、俺ァんなこたしねーがな。じゃ、なんかあったら呼べよィ」


そう言って障子を閉め、総悟がそこに腰を下ろしたのが月明かりによって出来た影でわかった。…総悟がいてくれるだけで、こんなに安心出来るんだ。一人だったら、きっと寝れなかった。


「…総悟」
「あ?」
「……ありがとう」
「…おー」


やる気なさげな、いつもの総悟の声。そんな声を聞くだけで安心出来る。総悟に心の中でもう一度お礼を言って、ゆっくりと瞼を閉じた。

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