「はっ…はっ…」


月明かりが屯所を照らす。丑三つ時の今、周りから物音は一切しない。聞こえる音といえば、私の息遣いと、竹刀を振る音のみ。


「はあっ……あと、百回…!」


女である私は、単純に考えて男の人よりも力が弱い。つまり他の隊士よりもやられやすく、それは同時に狙われやすいということも意味する。敵に狙われた時、私がそれに打ち勝つためには高い技術を身につけるしかない。自分の身くらい自分で守らなくてはいけないし、何よりみんなの足を引っ張りたくない。まあ今までそれなりに剣術も習ってきたし弱くはないと思うけど、やっぱり総悟たちに迷惑をかけることだけは、本当にしたくない。


「…毎晩毎晩よくやらァ」
「え、総悟!?」


素振りを再開したところで、背後から声がかかった。振り向くとそこにいたのは総悟。な、なんでいるんだコイツ…!てか毎晩って、なんで知ってんの!


「どうして…」
「お前がドカドカ動き回るから毎晩屯所が揺れるんでィ」
「上司とはいえぶっとばすぞテメ」


竹刀で肩をポンポンと叩きながら、総悟は私の前にまわった。そしてニヤリと笑い、口を開く。


「相手してやろうか」
「え」
「素振りにも限界があんだろィ。俺が直々に相手になってやらァ」
「でも総悟着流しじゃん。動きづらいでしょ」
「お前くれェ着流しで充分でィ」
「言ったな…!見てろよ絶対負かしてやる!」
「やってみな」


真剣な顔つきで、竹刀を構える総悟。その瞳に映り込む、真剣な表情の私。風が吹いて、草木がザァッと音を立てる。


「…来い」


総悟の一言を合図に、竹刀を振りかざした。





「負かしてやるっつったのは誰だったかねィ」
「う…」


結果は見事に完敗。でも真選組最強を謳われる総悟相手に健闘した方だと思うんですけど。しかも女なのに私。


「もうちょっとだったのになあ…」
「何がどうもうちょっとだったんでィ。バリバリ負けたろお前」
「うっさいなもう!私だって頑張ったんだから!」
「知ってらァ」
「…え」
「お前が頑張ってんのは知ってる。俺たちの足引っ張りたくねえと思って必死こいて練習してんのもな。お前の努力はちゃんと認めてらァ」
「総悟…」
「…明日も給仕で早ェんだろ、さっさと寝ろィ」


私の頭をポンと叩いて、そのまま去って行った総悟。彼の大きい手は、頭だけでなく心も温かく包み込んでくれた。…ちゃんと見ててくれてるんだね。

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