ウサギの心



手の平をぐーっと上に伸ばして空を見上げる。

天候は雨、
周りでは傘をさして歩いている死神ばかり。

私は何もささないで、むしろ空を見上げて雨を浴びる。

別に何があるって訳じゃない。
ただ、冬獅郎に会いたいと思った。

でも彼は隊長、私は三席。
だから忙しい時に無理して会うのは避けてる。

負担になりたくないからさ…。

でもそう思う心とは裏腹にそれでも会いたいと思ったりもする。

『…でも言えないんだよなぁ』

呟きながら歩いても私の側には雨しか居てくれない。

あぁー冬獅郎にとって私は必要なのかな?

十番隊には可愛い女の子も居る。
"会いたい"とか"寂しい"とか素直に言える可愛い女の子がさ。

雨のせいか余計に暗くなる思考にため息を落として、歩いて居ると前から雛森副隊長と一つの傘をさして歩く冬獅郎が来た。

「名前?」
「名前ちゃん!びしょ濡れじゃない!大丈夫?」

歩み寄ってくる雛森副隊長。
心配して言ってくれてるんだろうけど、冬獅郎を取られた気分になってる私には嫌味にしか聞こえない。

『お疲れ様です、雛森副隊長。大丈夫ですよ』
「大丈夫じゃないだろ!風邪引くだろうが!」

横から冬獅郎が伸ばす手をすっ、と避けた。

『濡れますよ、冬獅郎。とにかく大丈夫ですから』

頭を下げて2人の横を通り抜けて走った。

相変わらずの雨、大体自分の不安定な気持ちで人に当たるとかダメだな、ほんと。


『…ほんとに風邪引いて寝込みたいよ、』
「何考えてんだよ」
『…独り言に参加しないでよ』

振り向かなくても分かる声、大好きだけど今は聞きたくない声。

『雛森副隊長は?』
「先に行った、お前の様子がおかしいから追いかけて来たんだろうが」

ぴたり、と止まると同じように止まる冬獅郎。

『…』
「名前?」
『…ウサギってさ、一匹では生きられないんだって。どうしてか知ってる?』

傘を傾けて綺麗な青い瞳でこちらを見つめている。

『ウサギは寂しがりなの、だから一匹じゃ寂しくて生きられないんだってさ』

そこまで言うと、冬獅郎がさしていた傘が宙に浮いた。

『冬獅郎、風邪引いちゃうよ?』
「お前は、寂しくならないのかと思ってた」

抱きしめる力を強めて言う冬獅郎。

「お前が不器用で我慢強いのを忘れてた。名前だって寂しくなるに決まってるのにな、悪かった」
『冬獅郎…』
「でも…風邪引くから雨の中歩くのは止めてくれ」

『分かった、』
「あと…」
『ん?』

首を傾げると緩く唇に冬獅郎のそれが触れた。


『ぇ…?』
「寂しくなったらすぐに会いに来い」

傘を拾い上げて空を見上げた冬獅郎は出て来た太陽に目を細めて笑った。




ウサギの心


(『晴れたんだね、くしゅん!』)
(「ほら早く帰って暖まれ」)


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