涙ぐむ夜が消えてしまわぬように


『やーっと見つけたよ、ギン』


かすかな霊圧を頼りに三番隊隊舎の屋根に上ってみると、やっぱりそこには探してた愛しい人が座っていた。



「ん?…あぁ、名前か。どないしたん?」


首を少しだけ後ろに向けてちらりと私を見たギンは直ぐにまた空を見上げた。



『今日現世に討伐に行ってね。これ、買ってきたの!』


懐からこそこそと取り出した包み紙をギンの前に差し出すと、彼は少しだけ首を傾げてからそれを受け取ってくれた。


「これは?」


『ギンにプレゼント!…ほらほら、開けてみて?』


包み紙の中を見てギンは「おっ」と小さく声をもらした。



「これ、どないしたん?」


手のひらにそっと置かれた干し柿をくんくんとわんこのように匂いを嗅いでから小さく笑った。


「ええ匂いやなぁ」


『でしょー?ギンに食べて欲しいから、わざわざ買ってきたんだよー』


隣に腰を下ろしてから笑うと、ギンは少し不思議そうにこっちを見た。



「ありがとうな。でも、急にどないしたん?」


『んー?』


ちらりとギンを盗み見ると、ばっちりと目が合ってしまった。


「なんかあったん?」


『いや、何かあったって訳じゃないんだけどねー…』


ぱっと見上げた空は、闇に染まり始めていた。


「名前?」


『…ただ現世で任務してたら、なんだかギンに会いたくなっちゃったんだー…なんて』


少し照れ臭くて頬を小さくかいて笑ってみたら、ギンは一瞬驚いた顔をしてからいつもみたいに口元を緩めた。



『あ、あんまり見ないでよっ!』


思いのほか優しく微笑まれたから、余計に恥ずかしくなって反対方向に顔を逸らすと、くつくつと小さな笑い声が聞こえた。


『もう!笑わないでよ……っわ』


振り返ってこの際勢いで文句でも言ってやろうと思った時、肩に暖かさと少しの重みを感じた。



『ギン?』


私の呼びかけに返事をしないで、代わりにぐりぐりと頭をすり寄せるギンはやっぱりわんこみたいで思わず小さく笑ってしまった。



『もーっ、ギン、くすぐったいよ?』


「…僕も」


『ん?』


耳元で聞こえた小さな声に首を傾げて耳を寄せると、小さな小さな声が届いた。



「…僕も、名前に会いたくて、ここで待ってた」


ギンの素直な言葉に、思わず頬が熱くなるのを感じながら黙ると耳元にまたくつくつと小さな声が届いた。


「名前、耳まで赤いで?」


『もう!ギンが急に恥ずかしい事言うからじゃん!』


「でも、ほんまの事やねんもん」


私の頭を軽く撫でてから、すっと寄せられた唇は私のそれを少し掠めてから隣に返った。


『ギン、ここ、外!』


「まぁまぁ、そんなん気にしてやんと食べよー?」


すっかりギンのペースに乗せられてしまったけど、それもやっぱり居心地がいい。


「ほら、名前?」


あーん、と言いながら私に干し柿を差し出すギンも楽しそうで、また小さく笑ってしまった。





涙ぐむ夜が消えてしまわぬように


さんくす。
たとえば僕がさま。

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