舞い上がったココロは同じ
いつも通りに執務をこなしながらちらりと見上げた空は、いつもと違ってどんよりと暗く曇っている。
うわぁ、雨降りそうだなぁ。
…まぁ雨ぐらいなら良いんだけども、もしカミナリとかが鳴っちゃうと、困る!!
「…名字」
『え、あっ、朽木隊長!』
「何をぼんやりしている」
『えーっと、あの、すいません…』
あはは、と曖昧に笑いながら謝ってみてもジッと私を見る隊長の顔。
…やっぱりサボってるように見えちゃったんだよね?
…空のカミナリよりも隊長のカミナリの方が怖いっ!
『わ、私!十番隊に書類届けて来ますっ!』
バタバタと隊舎を飛び出して外に出ると、タイミング悪く雨が降り出した。
『…うわぁ、最悪だぁ』
書類を濡れないように服の中にしまって走ってると、辺りがピカッと黄色い光に包まれた。
『…っ!』
それから少しだけ遅れて鳴り響いた空を引き裂くような大きな音に、思わず立ち止まって耳を手で覆った。
ヤバイ、ヤバイ!…ヤバイ!!
これ以上酷くなるとほんとに動けなくなるよっ!!
私はとにかく強く耳に手をあてがいながら走って、唯一私の苦手な物を知る彼の元へと急いだ。
ー…
コンコン、ガチャッ。
『冬獅郎ーー!鳴ってるよ!空を引き裂くように鳴ってるよー!!』
「名字…扉は返事を待ってから開けろ、騒ぐな、書類を撒くな、隠れるな…!」
ため息まじりに頭を抱える冬獅郎の机の下に入り込んで、あははと曖昧に笑うとまたため息をつかれてしまった。
『仕方ないじゃん!怖いんだから!!…大体、怖いの知ってるの冬獅郎だけなんだもん!!』
その一言に、さっきまでため息をついていた冬獅郎はピタッと動きを止めて私を見下ろした。
いつでもと反対に見下ろしてる彼の瞳は、やけに綺麗に感じてただ黙って私は冬獅郎を見上げた。
「お前は、」
『ん?」
「お前はなんで、カミナリが怖い事を他の奴に言わないんだ?」
『なん、でって…』
真剣に私を見つめる冬獅郎に、思わず口ごもる。
なんでって言われても、
ただ、一緒に居ると落ち着くし、不思議と冬獅郎の側に居ると怖く無くなるから…って、あれ?
『私、もしかして…』
頭の中に浮かんだ答えに何と無く納得出来て口を開こうとした時、窓がピカリと明るく光った。
『っ!わぁぁっ!!カミナリ、鳴るよ!冬獅郎、助けて!!』
手のひらで耳を抑えて、目も閉じて俯いていると、ギュッと暖かさに包まれた。
『冬獅、郎?』
「…大丈夫だ、俺が側にいる」
とんとん、と優しく背中を叩いてくれる冬獅郎の腕の中にいると、ほんとに落ち着いてきてやっぱりカミナリの音も怖くなかった。
あぁ、この気持ちがそうなんだ!
『…好き、だから』
「…え?」
『私がいつも冬獅郎の所に来る理由…好きだからかもしれない』
ポツリと呟くと、冬獅郎の身体はふっと離れて、変わりに驚いた様にこっちを見る彼と目があった。
『…いや、返事とかは、大丈夫だから』
「…名前」
『…ん?』
「…俺が、勝手に期待してるだけだと思ってた」
『期待…?』
また真っ直ぐに私を見る冬獅郎を私も黙って見つめてると、頬が少し赤くなってる気がした。
『え、冬獅郎?』
それっきり黙った彼の名前を呼ぶと、急にまたギュッと彼の腕に包まれた。
「俺も、好きだ」
消え入りそうな声で呟かれたと思うとまた空がまたピカッと明るくなったから、冬獅郎にしがみついた。
冬獅郎から聞こえる心臓の音が少し早くて、緊張してるのかなぁ?って思うと少しだけ嬉しくなった。
『…冬獅郎?』
「…なんだ」
『これからもカミナリ鳴ったら会いにきて良い?』
「…当然だ、と言うより俺以外の奴の所に行くな」
『ふふっ、分かったよ』
舞い上がったココロは同じ。
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