声に出せない

※逃亡直前



旅禍の少年、黒崎一護達の動向を陰から眺めて、空に目を向ける。


いつもと変わらない空の色。


だけど違って見えるのはきっと、私の心がくすんでいるから。



あの時、藍染に会わなければ私はもっと普通の死神としての人生が送れたんだろうな。


―…なんて。
考えてみても結局たどり着くのは今と同じ結果で。



「…名字?」


『…ん?あぁ、日番谷』


ぼんやりとしていた私に声をかけてきたのは、同期の日番谷だった。


「どうしたんだ、こんな所で」


『いやぁ、別に』


「…お前、最近何か変じゃないか?」



へらっと笑った私に日番谷は真剣な表情で言った。


一瞬、胸が痛んだ。

…でも、私にはどうする事も出来ない。



『何で?別に普通だよ?』


「…嘘つけ、どれだけ一緒に居ると思ってるんだ」


何があったんだ、と続ける日番谷。


言えないよ、いくら良き理解者でも。

言えないよ、好きな人だから。


―…それに私は、今日ここを出るから。



「名字」

『…実はさ、日番谷に話しがあったんだ』


「何だ?」


『ゆっくり話したいから今日の終業後に、執務室に行くよ』


「分かった、あまり抱え込むなよ」



そう言って忙しそうに歩いて行く日番谷。


忙しいのにわざわざ私を気にしてくれてありがとう。

今まで良くしてくれてありがとう。


私に出会ってくれてありがとう。




『冬獅郎…!』


私が呼ぶと驚いた顔で振り返った彼。



『…ありがとう』


「名字、ほんとに大丈夫か?」


『大丈夫だよ、言いたかっただけだから』


「でも、」
『ほら、忙しいんでしょ?早く行かないと』



手を振ると、日番谷は渋々前を向いて歩いて行った。



『…好きだったよ、さよなら』



私はゆっくり日番谷と反対の道を歩き始めた。





声に出せない、想いの果てに。




あいつが俺の前から姿を消したのは、
あの日だった。
お前は最後に俺に何が言いたかったんだ?

それとも何も言いたくなかったのか?

…教えてくれよ、名前。






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