お気楽な悪夢

昔、ずっと昔。
大嫌いだった嘘ばかりの世界から私は消えて、そしてあの世界よりは暖かい、でも酷く冷たく嘘しかない世界に、生れ落ちた。

大嫌いだった嘘ばかりの世界の記憶を持ったまま、嘘しかない世界に生れ落ちた。


「弥三郎、」


父上に呼ばれる。そういえば今日はお友達が来るんだった。すっかり忘れてた。
はい。一言。今行きます、そんな意味をこめた返事。

その場から立ち上がり、父上へと続く。
今日来る子と、お友達になれればいいな―――





「――アニキ!」


呼ばれる声に耳を傾ける。どうした?そう聞けば、帰ってきた言葉は信じられない…否、信じたくない報告で。


「……何?おい、犯人は誰かわかんねぇのか!」

「っ…こ、これが…あいつらの近くにっ」


野郎共が渡してきたのは、旧友である――徳川軍の旗。
たかが旗で、されど旗で。


「っ…!あの、野郎っ…!」

「アニキーッ!も、毛利の兄さんから使いが…!」

「手紙だそうです!」

「手紙だぁ?今はそれどこじゃねーんだよ!」

「そ、それがアニキ!どうも毛利の兄さんとこも同じ状況みたいで…!」

「…なんだと?」


野郎共から手紙を受け取る。あいつからの手紙は珍しいことじゃない。だから最初は気づかなかったが、内容を読んで気づいた。


「…西軍に加入?…家康は、東軍…。」


関ヶ原の戦い。きっとこれだ。これしか、覚えが無い。ならば、きっと同じ被害を受けたというのは真っ赤な嘘だろう。毛利と大谷が考え実行した作戦。今日だったのか、知らなかった。
真っ赤な嘘で綴られた手紙。内容は嘘しか書いてない。西軍加入は表面上本当だけど、あいつの企みは本当さえも嘘にするのだろう。

…まぁ、その嘘にのる俺も嘘でできた1人なのだが。


「…野郎共、中国に行くぞ」

「! 毛利の兄さんと話し合いに行くんすね!」

「ああ。船を出せ!すぐに出向だ!」


嘘の中の嘘を見抜きながらも、その嘘を信じる嘘をつく俺はどれだけ大嘘吐きなんだろうなぁ。
まぁ別に、あいつと一緒にいれればそれだけでいいんだが。



お気楽な悪夢
(まぁそれも)
(嘘の一環にしか過ぎないけど)