同時刻、主人公の死亡を知らされた生徒達はというと――
「どーも信じられないんだけど」
眉をゆがめながら言う彼、そう主人公と途中で分かれて帰っていた猿飛佐助である。
「…Hey猿。そりゃどーゆうことだ?」
「政宗殿…でも、某も信じられないでござる」
友達が死んだ事実を受けられないというのは、誰にでもあることだろう。信じられない、信じたくない。そういった思いが幸村を占めていたが、佐助はどうやらまた違った“信じられない”らしい。
「そりゃあさ、主人公ちゃんも人だから死ぬだろうけど…まずあいつが気づかないのがおかしいと思わない?人より敏感な部分があるのにさぁ?」
「それは…俺も思ったが…」
「でも気づいたとしても車のスピードを考えたら無理じゃねぇか?避けるの」
「主人公ちゃんなら避けられるでしょ、人間って危機的状況に陥ると動けなくなるみたいだけどそこで動かないと死ぬって考えれば嫌でも動くよ。って言ってたくらいだし。それに昔旦那が車にひかれそうになったときも主人公ちゃん助けてるしさ。」
「それは…他人と自分じゃ違うんじゃねぇか?」
「それはそうかもしれないけど…。それに、俺様主人公ちゃんの死亡状況も解せないんだよね」
「死亡状況とな?」
「そう」
主人公ちゃんの事故に会った場所には、急ブレーキをかけると付くあのコゲ痕みたいなのがあったらしい。聞いた話だから確証はないけど。でも、だとしたら余計おかしいんだ。そんな急ブレーキをかけたら、やっぱり凄く音が響き渡ると思う。でも、
「でも…俺様も旦那も、そんなブレーキ音は聞いてない…むしろそんな酷いブレーキ音したら発見が遅くなる、ってのがまずなくない?俺様が気づかなくてもあそこすぐ近くに住宅地密集してんだからまず気づくでしょ?それにぶつかった音も激しいはずなのに何一つ聞こえなかった…ありえないじゃん、こんなの」
「で、でも佐助!確かに主人公殿は…!」
「…さっき死体見せてもらったばっかだろーが、すっげー綺麗で…綺麗?」
「そうそう。超綺麗だった。…さすがに傷痕はあったけど、全部縫ってあったし。…それをぬいても、あれは綺麗すぎるよ。」
簡単に体確認したけど骨が突き出てるでも折れてるでもなかった…打撲痕は体の方にあったし、いくつかちゃんと擦り傷もあったけど…でもおかしい。あんなに綺麗なわけがない。そんな強い衝撃があったんだから、もっと酷いはず…。
…あれ、なんで俺様、こんなに詳しいんだ?
「…猿飛、ぬしはつまり…何がいいたい?」
今まで会話に参加しなかった大谷の旦那が聞いてくる。言い忘れてたけど一応ここにはクラスメイト全員がいる。それから、主人公と関わりが強かった人、全員…。
俺様は大谷の旦那の方を見て、憶測である言葉を、有り得ない予測を言ってみた。
「…主人公は、死んでない。…んじゃ、ないか…な。」
あれは偽者で、本物は何かに巻き込まれてる。
希望的観測と言われてもいい。でも、俺様はどうしても、あの死体が…あれが、主人公には見えなくてしかたない。…というか、あれが『人』だとは、どうしても思えなかった。
現実を受け入れられないわけじゃない。夢に逃げたわけじゃない。たぶん。もしかしたらそうであってほしいってのが少なからずあると思う。でも、それでも。
「俺は認めないよ…あれが、本物の主人公の死体だなんて。人の死体だなんて。そんなの、認められるはずがない。」
あんな死の臭いが漂わない死体なんて、誰が認めろというのだ。
あんなただの作り物を人の死体だなんて、誰が認められるのだ。
どうして自分がこんなにも死の臭いだとかわかるのかなんて今はどうでもよかった。ただ、俺はあれを人の死体だということが信じられなかった。皆が何か言ってきても、俺はどうしても信じられない。その自信があった。
真っ直ぐ大谷の旦那を見ながら言えば、真田の旦那や伊達の旦那…それだけじゃない、何人もの視線が俺様に突き刺さる。心配とか、呆れとか、そんなのもあった。…俺様自身なんでこんなにあれが死体じゃないのを断言できるかなんて、わかんないけどさ。
しばらくその状態で数秒。そしてすぐに、大谷の旦那の隣に座っていた石田の旦那が立ち上がり、俺様に背を向けて出入り口へと向かった。もちろん、大谷の旦那もそれに続く。
「お、おいお前等どこに…」
「邪魔だ。どけ長曾我部。」
「ヒヒッなぁに…少し確認してくるだけよ。われはついていくだけだがな」
そのままさっさか出入り口へと行く2人を唖然と見つめる。外に出る前に石田の旦那がこちらを向いて、というか俺様に向かって口を開いた。
「猿飛。貴様、裏切ることは許さない。」
「へ?」
「…無意識ならそれでもいい。でも、裏切りだけは許さない。」
意味がわからないことを言って出て行く石田の旦那と大谷の旦那。…たまにあの2人って意味わからないこと言うよね。でも、なんでだろ。意味はやっぱりわからないけど、なんか懐かしい感じがした。
それから石田の旦那と大谷の旦那が主人公を拾ったっていう知らせが入るんだけど、それはまだもうちょっと後のこと…。
無意識
(死体特有の死の臭いがしないんだ)
(…って、なんでそんなの俺様知ってるんだよ)