「あ、あそこじゃね?」

「あ、本当だ。」

「…本当に真選組…なんだな」


言われた通りの道を進み、真選組に辿りついたぼくらはどうしていいかわからず、その場に踏みとどまっていた。

チャイムはない。門も閉まっている。
第一現代社会にこんな大きな家は無い。

いや、普通にあるのかもしれないけど、生憎山崎君の家は普通の一軒屋。ぼくの家は団地で、高杉君は1人暮らしでアパートを借りている。
つまり今のところぼくらの中じゃあ山崎君の家が一番大きいのだ。


「誰が声かけるよ…」

「っていうかまずここやってるの…?定休日とかじゃあ…」

「警察に定休日なんてあんのかよ…」


ごもっとも。
第一声はさっきからしてるのだ。門の向こう側から。だから声をかければ気づいてくれるのもわかっている。わかってはいるのだ、そう。わかっては…うん。いるんだけど…。


「……じゃーんけーん」

「「「ぽんっ!!」」」


ぼく→チョキ
高杉→グー
山崎→グー


「…ちくしょおおお!!」

「その息で呼びかけて来い」

「頑張って…!」


いつもは助けてくれる山崎君もさすがに今回は見捨ててくれやがったちくしょう。

小さく息を吐き、拳を握る。
その姿はまるで合格発表を見る寸前のような、そんな姿だった。


「よし………たのもおおおおおおおお!!」

「ばかやろぉぉおおお!!」

「え」

「どこのだれが警察に『たのもぉ!』なんて叫ぶやつがいるかァ!!」

「…しまった、警察だったんだ…!」

「まさか忘れてたの!?ついさっき言ったばかりだよね!!?」

「こう…なんか不良の溜まり場に突撃するみたいな雰囲気だから…」

「わからなくはないけどさ!わからなくはないんだけどさ!!」


まるでラスボスと戦う寸前みたいな雰囲気で、ついつい挑戦的な言葉を吐いてしまった終。
まぁ確かに和風でどっからどうみても堅気じゃない雰囲気ぷんぷんの警察所だったら叫びたくもなる。

そうやって3人でわぁわぁと騒いでいれば、急にギギギッと微妙な音をたてて門が開いた。
門の開く音に、思わず静かになり反射的に見つめれば…そこから出てきたのは、酷く見覚えの有る人だった。


「…ひじかた、さん…?」


山崎君が唖然としながらその名前をつむぐ。高杉君は眉間の皺を濃くして、ぼくはというと目の前の知り合いより奥で倒れてる人間の方が気になった。
顔はこっちを向いていないが、近くにミントンのラケットが落ちてて、黒い服を着てるけど、あれはまさしく、いま、ぼくらの隣にいる、彼で――


『やまざ…!』


目の前にいる知り合いも、少し目を大きくして、後ろを振り向いた。振り向いた先にはラケットと一緒に倒れている彼。
彼を見たあとまたこちらを向いて、山崎君、ぼくを見た後高杉君を見たとき、

目の色が、変わった。


『てめぇ…高杉晋助!!』


腰に挿していた、視界に入れようとしなかった黒くて長いもの。
目の前の知り合いはそれに手をかけるや否や、それを抜いた。

それは、前高杉君が冗談で持ってきたおもちゃの刀と、よく似ていた。


「ッ、てめぇら避けろ!」


両手で唖然としてるぼくと山崎君の後ろ首を掴み、引っ張ったのだろう。
力任せに引っ張られたぼくと山崎君はそのまま後ろに放り投げられ、高杉君も一緒に後ろにとんだ。
目の前を銀色の何かが、通っていった気がした。


『チッ…!』


舌打ちをして、また銀色を構えるクラスメイト。
わからないけれど、肌がピリピリとした。紙で指を切ったときのように、地味な痛みが肌をかけ走る。


「…っ……あ、あ…っ!」


呆然としていると、山崎君が先に正気に戻り、酷く震え始めた。

怖いのだ。
ぼくらはこんな状況知らない。
死を直視したことがない。

それは高杉君も同じで、目の前にいる知り合いを酷く睨みつけてはいたが、かすかに震えている。

ぼくはというと、事態が飲み込めないのかもしれない。怖いのはわかる。痛いのもわかる。けれど、なにが怖くてなにが痛いのかわからない。
なんだなんだなんだ。何が起こったんだ。山崎君とぼくを助けようと前に立つ高杉君がいて、怖くて震えてる山崎君がいて、唖然としてるぼくがいて…。高杉君も山崎君も怖いのに、僕だけ怖くないの?いや怖い。なにがって言われるとわからないけど、なにかが怖い。そういえばさっき目の前を通ったのはなんだ?ぼくと山崎君には僅かに当たらない位置にあったのはなんだ?

目の前のクラスメイトを、知り合いを、高杉君越しに見る。

彼の手には、現代人には見慣れない、鋭く光る銀色の…漫画にだけでてくる、『刀』に見えた。


「…ほんもの?」


さっき目の前を通った銀色があれで、ぼくと山崎君は高杉君のお陰で助かって、で…で?

なんで彼がそんな行為を犯したの?


『……テメェ、』

「………」


目の前の知り合いが、僅かに眉間に皺をよせる。ぼくしかそれには気づかない。高杉君はいまだ睨みつけているけれど、虚勢というやつだ。山崎君もいまだ怯えてる。
なんだろう、彼はぼくの知ってる彼じゃない気がした。
というかはじめからおかしいのだ。ここは一体何処だ。彼は誰だ。なぜ高杉君は殺されそうになった。彼はなにがしたい。ぼくらがなにをした。

あぁあぁ頭がごちゃごちゃになりそうだ。

ぼくは立ち上がる。このままじゃ埒があかない。どうやら目の前の知り合いに似た誰かさんはぼくと山崎君に害成す人間ではないらしい。いや、山崎君に至っては適当なのだがぼくは平気だ。さっきから様子見なのかちらちらこちらを見ている。ぼくは大丈夫だ。ぼくだけが彼と話せる。ぼくがやらなきゃいけないんだ。ぼくがぼくがぼくが……


「高杉君、山崎君。」


声は震えてなかっただろうか?ちゃんと名前を紡げただろうか?いろいろ考えすぎてそんなことはわからなかった。だが、2人がこちらを見たからきっと紡げたのだろう。

ぼくは2人に少し歪になってしまった笑みを向け、そして目の前で刀を構えている彼に視線を移した。


「土方君…いや、……きみは、だれだい?」


目の前にいる彼は、今度こそ、目を大きく見開いた。




ぼくらと誰か
(きみのことなんてぼくは知らない)
(きみはかれじゃない)
(きみは、だれだい?)