■ つまるところ、僕は『権現』なのさ。

絆と吐いては絆を奪う。その行為は明らかに矛盾しか生んではいなかった。ただ、言い訳をするならば、俺がそれを望んでしたことじゃないということくらいで。


( けれど、まぁ だれもそんなこと しんじてくれないわけで )


ならば欲しかったものはなにかと、したかったことは何かと聞かれれば、何も答えられなくて、でも明らかに今やってる行為は望んでしたかったことじゃないわけで、


『徳川殿、某はわかりませぬ。なぜそうも笑っておられるのだ?その場所で、なぜそうも笑い続けていられるのでございますか。』

『あんたはただのfoolだ…俺にゃあそんな生き方真似できねぇよ』

『家康…てめぇ、変わっちまったな』

『徳川…ぬしは、ぬしだけは死んでも許さぬ』

『私の絆を奪い、一方では絆を説く…。答えろ家康!この矛盾の行方を!!』



理解して欲しくなんかない。真似してほしくなんかない。変わって何が悪い。許して欲しくなどない。…行方なんて、知らないよ。


『なぁ、三成。いいなぁお前は。自分に正直でいれて。』

『何を言っている。貴様も同じだろう。』

『…同じに見えるか?』

『たかが兵士と飯を共にするなど貴様のような阿呆しかやらん』

『ははは言い方がきついぞー三成!』



皆が望むのは何か、それを知る為にはああするしかないんだということに誰も気づいてくれなかった。別に兵士と飯を食うのが嫌なわけじゃない。その後にこそこそ言われる陰口がきついわけでもない。ただ、どちらかといえば1人で静かに食べるのが好きなだけであって、別に他意はない。

正直なことを言えば、和気藹々に見えるあの触れ事は、望みを知る行為だったから、嫌いだったかもしれない。


『秀吉様…!家康、きさまああああ!』

『忠勝!』

『逃げる気か家康、家康ううう!』


『…すまないなんて言おうとは思わない。ただ一つ、言わせて貰おうと思う。』
『望んだのはわしじゃなくて、皆だ。だからわしは、悪くない。悪いのは、望んだ皆だ。』



期待に押しつぶされそうだった。責任に押しつぶされそうだった。規則に押しつぶされそうだった。立場に押しつぶされそうだった。力に押しつぶされそうだった。世界に押しつぶされそうだった。望みに押しつぶされそうだった。偽善に押しつぶされそうだった。

そんなところから抜け出せる方法は一つなのもわかっていた。
だから、誰もいないところで、全ての責任を、誰かに押し付け続けるのだ。


『期待をしてくる皆が悪い』『責任を被せてくる皆が悪い』『規則を作った皆が悪い』『ここに生んだ両親が悪い』『強さを望んだ皆が悪い』『世界が広いのが悪い』『望む皆が悪い』『適当な善意を向けてくる皆が悪い』

『だからつまり、わしは全く悪くない。』
( こんなことをいうおれを あいつは よわいといってくれるだろう )


でも、


倒れ付す目の前の銀色。止めをさした拳の感触。ああ。ああ。
終わったのか。


「…結局、俺が主人公か。」


これで三成が主人公ならば俺は死ねただろう。でも、その後のことを考えるとそれは少し危ないかな。まぁ、自業自得なわけだから俺が心配する意味などないのだけれど。雑賀が三成側について、そして雑賀が主人公ならば世界へと行くのだろう。俺が死んでも三成は壊れずに。ああ、でもそれはそれで、少し残念かな。

全てが終り皆が歓喜する。なぁ、残党とかさ、隙見せるから殺してくれないかな。…そうか、残党なんて、いなかったか。皆、俺が殺したんだから。


「家康様!やりましたね!」

「ああ、そうだな。皆よく頑張ってくれた!負傷者も沢山いるだろうから、早く戻ろう」


笑顔で言えば皆ぞろぞろと帰ってゆく。その中にいくつか東軍だったものの姿も見えた。ああ、そういえば、これからはどうするのだろう?俺が天下を治めるのか、それともまた戦か…武将を全員殺せば終わるのか、この戦いは。


( “無人の天下”こそが いちばんの“平和な世”では ないのだろうか )


…きっと、違うんだろうな。皆の望みと、俺の思いは。

かつて友と呼んだ男に背を向けて、わしもその場を去った。



皆が望んだ結末がこれだったという話
(だから俺を恨むのはお門違い)
(…っていえればよかったのになぁ)

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