■ 銀色が二つ
凶王は今日も元気に引きこもっていた。どんなに刑部が飯を食えと言ってきても食わず、どんなに市が寝なさいと言っても寝ず(寝ようと思うと狸が夜這いにくる)ぶっちゃけ性欲など中身が女だからあらず(まぁこれは性格にもよるが)、人間の三大欲を悉く無視して生きているのだった。
そしてかなり不健康で引きこもり生活を続けていた彼が少しうたた寝をした後、起きたときそれは起こっていた。
「――みぃいぃつううぅうぅなぁああぁありぃいぃいいぃいい!!」
「やれやれ…またきよったか」
隊士じゃ太刀打ちできないのはもうとっくの昔から知っていたので期待はしていない。大体彼、徳川家康が石田三成を訪ねにやってくるときは必ず(夜這いは抜く)叫びながらやってくるのだ。
とりあえず止めるか、と思い向きを変えたところで―――三成の部屋の襖が、開いた。
スパァンッと、壊れる勢いで開けられた襖。驚きを交えそちらを振り返れば、そこには三成がたっていた。
「…三成?」
「…………」
「…三成!わしに、愛に来てくれたのか…?」
会いに、が愛に、と変換されているが誤字ではない。家康による脳内変換によるものである。
まぁそんなことは置いておいて、刑部は思った。外見は明らかに三成だ。だが、なんだろうこの雰囲気は?と。
いつもの三成といえば引きこもって部屋から出てこなくてたまに外に出ると太陽の光で死にかけて体力が全くなくて刀をよく無くして甘味好きで家康に追い掛け回されて政宗にノリノリで相談されたり恋バナに花咲かされたり幸村と元就となんか仲良くやってたり元親に助けられたり市に助けられたり佐助に団子貰ったり我が助けたりしないと無事生きていけないようなそんな子なのだ。
それが、いまはどうした。
やはり1人にしてはいけないのは同じだが、いつもとは全然違う。
そのことに狸も気づいたのか、少し眉をひそめていたが。
「…三成?」
「………ぅ…」
「みつ、」
「いぃいぃいい…」
あ、やばい。反射的にそう思って三成(仮)から距離を取れば――狸がいた場所の床が裂けた。
「おっと…危ないな。三成、どうした?いつもと違うようだが?」
「いえやすぅぅ…貴様ァ!なぜ私の前に現れた!なぜ敵軍の城へと1人で現れたァァアアア!!」
「え、ちょ、みつn」
「私の前に現れたことを後悔しろ!地獄の果てまで残滅しろおおお!!」
「するなあほおおおおお!」
叫びながら刀を構えていた三成(仮)の後頭部に飛び蹴りをかました…もう1人の、いつもの三成。そのまま2人で地面とこんにちはして悶えていたがそこは割愛しよう。
ちなみにこのとき刑部は厄介なことになったと思い、家康は三成が2人いることによる至福の時を満喫していた。
銀色が二つ
(ッ〜…!何をする貴様あああ!)
(いっでー…それはこっちのセリフだボケ!城壊す気か!)
(…ぬしは本当に不幸を呼び寄せる)
(はぁはぁ三成がはぁ2人はぁはぁはぁはぁはぁはぁry)
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