予告どおりに、そこまで遠くも無い墓に適当にそのへんに生えてた花を数本持って参りに行く。あ、参りに行くってなんかかっこいい。
本当はちゃんと花買ってやったり線香上げてやったりしたいんだけど、雨降ってるから線香もお花も死んでしまう。今度晴れた日にちゃんと見繕ってやんよ。

今気づいたけど参るも行くも同じ意味じゃね?と揺れる電車の中で考えていた。



▽△



「…意味ないし、てか甘いもの嫌いだったけど…いいよね。どうせ俺が食うんだから」


毎回そこら辺に咲いてる雑草同様の花だけでは可哀想なのでコンビニで団子を買った。ちなみに餡子だ。
傘でどうにかガードはするけどどうせ濡れるだろうなぁ、まぁプラスチックのパックだから無問題なんだけど。

傘で降り注ぐ雨をカバーしながら、それなりに見知った道を歩く。
確かここ左に曲がったところだったよな、とどちらかと言うと墓の面積に対して隅っこの方にある墓を思い浮かべた。

墓の前について、とりあえず団子を置く。
中身は無事なのわかりきってるからもう雨に晒しておいた。プラスチックに当たる雨音が煩いような、心地よいような。


「最後に来たのいつだっけかなぁ…墓近いんだからなるべく来ようとは思ってるけど電車代馬鹿にならねーし、かなり前だった気がする」


まぁ、久しぶりーと適当に墓に向かって独り言を吐いて、お花を置いて、傘を肩にかけて手を合わせる。
死者は、嫌いじゃない。幽霊が好きというわけでもない。ただ、死者は重んじるべきだと思ってる。一応言っておくけど幽霊絡みの意味ではない。

はぁ。黙って手を合わせ、そしてしばらくたったころに吐息を一つ吐いた。
そして、ここにきてずっと黙りっぱなしだった墓の後ろにいる誰かさんに、声をかけられたのも同じタイミングだった。


「ねぇ」
「んー」
「それ、食べ物?」
「餡子のお団子、食べる?」
「………貰おう、か、なぁ…」
「うん、じゃあちょっと待ってな」


傘を持ち直し、パックに手を伸ばす。
バリバリと音を立ててあければ相手は少し驚いたようで、墓から少し顔を覗かせていた。
三本入りの団子の一本を取り出し、傘と一緒に持ち渡す。
団子が濡れないように、という配慮だったのだが少し躊躇った後団子だけ引き抜かれるから意味をなくしてしまった。餡子、流れるぞー。

少し近くに寄って傘で団子を守れば、相手は食わないけど団子を見つめる。
なんだこいつ、と不審にも思うけどまぁ…格好からして奇抜だから別にいいか、と思い残ってる二本の団子中一本を取り出し銜えた。


「…食べねーの?」
「えーあー、うん」
「別になんも入ってないよー、コンビニのだしな」
「こんびに?」
「そ。そこのコンビニ。団子屋には負けるけどそこそこの味してるよね、これぞ文明の進化」
「…?まぁそのこんびにってのは知らないけど確かにそこそこの味だねー」


団子屋には負けるけど。そう呟く彼はいつのまにか団子を銜えていた。
男2人墓の後ろで団子を食す姿は、それはそれはシュールで不審的に違いないだろう。
通報だけはされませんよーに、と心の中でお願いをしておき、残りの団子を彼にやる。
いらないって言われたけど問答無用で押し付けた。

さて、今この団子を食べ終わる少しの時間を思考に使わせてもらおうと思う。
彼に関する情報は警戒心が強く、コンビニを知らなくて、団子屋は知っていて、現代的な格好ではないということぐらいだ。
顔がイケメンなところを見ると何かの撮影から逃げ出してきた、という可能性とかまぁ色々あるんだけど…コンビニ知らないって、どこの坊ちゃんだよと思う。
いやたぶん今時金持ちのボンボン坊ちゃんでもコンビニくらい知ってるだろう。たぶん。

色々考えはせど全て憶測止まりで、そして現実味がないのばかり。
団子食い終わったら帰ろ、と思ったところで不本意だけどリクの言葉を思い出した。


「捨て猫に傘をあげよう」
「…たぶんこれ今日ずっと外いたら、寒くて死にそうになるんだろうなぁ」


言葉を思い出すとともに彼に視線を向ける。
彼は視線に気づいたようでこちらを見た。
視線が合った。

…猫に傘をあげよう…はきっと、団子でクリア。
そして確かに今日は気温も低くて、こんな中ずっと放置されたら…ただの風邪、じゃあすまない…よなぁ…。

………たぶん、この俺を動かしていたのは同情心だけだけど、


「…あのさぁ、少年よ」
「あんたのが少年っぽいけど…なに?」


でも、後のことを考えると、


「俺んち、来る?」
「………は?」


このときの選択は、間違ってなかった。
………と、思いたいなぁ。とりあえず後悔はしてない、ってことで万事解決でいいと思う。

この後戸惑っている彼を引き連れて俺の家まで問答無用で行くまで、後1分―――





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