『今日は降水確率0%、洗濯日和でしょう。では、次に今週の天気予報です――』


TVで流れている天気予報を聞き流しながら、予定を立てる。そうか、今日は絶好調なる晴れなのか。そうかそうか。今月少し金使いすぎだけど、でも今を逃したらまた雨の日しか行けなくなるな。

そうと決まったら、即行動。


「佐助君、墓参り行くけど…一緒行くかい?」
「、…それって俺様と最初に会った、あそこ?」
「そうそう。降水確率0%だし。ちゃんとした花買って、線香買って、また団子のお供えでもしようぜ」
「またコンビニの団子?」
「団子屋の団子でもいいけど…近くにないんだ」
「あらら、そりゃ残念だこと」


あまり遠くまで行っても電車代がもったいない。花と線香買う上に今月はもう使いすぎてるんだ。少しでも節約しなくちゃならん。

財布と携帯だけポケットに突っ込んで、佐助君を呼べば先に出ていてといわれる。
まぁすぐに出てくるだろうと思い外に出た。



▽△



あのあと佐助君はすぐに出てきて、一緒に駅まで自転車に乗った。自転車は駅につなげて、電車に乗って墓まで来た。
墓の近くにあるコンビニで団子と菓子を買い、その足でそのまま花屋で花を買った(線香はおまけでついてきた。買う必要なかったのか…)

それで、まぁ、水を桶に入れて今お墓の掃除中なう。


「コップきたねー…花いれるやつもきたねー……」
「或人ってば本当に洗ってたの?」
「墓は洗ってたけど他は放置だったな…よし、洗うぞ佐助君!」
「俺様もー?…まぁあの2人の儀式の後の修理よりは楽だからいいけどさ」


ふぅ、と溜息を吐く佐助君にスポンジを渡す。墓は結構洗ってるから綺麗なので流すだけでいいだろう。問題はこのコップと花瓶(?)だ。

ヘドロで酷いぜ!なんてこったい!
そんなことを叫びながら墓掃除へと当たった。




「―――ふぃー、終わったな」
「汚いわりにそこまで落ちないってわけじゃなかったから以外と早く終わったねー」
「まぁ主にヘドロだったからな。コップの中の水分が全部蒸発してヘドロが乾く前でよかったぜ本当…」


溜息を吐きながらも、コップに綺麗な水を入れて、花を花瓶に挿す。
線香に火を点けて、線香入れに入れれば後は終了だった。


「佐助君、半分よろしく」
「え?俺様も?」
「一緒にいるんだから一緒にやらなきゃだろ」
「うーん…そうゆうもんなのかねぇ…?」
「そうゆうもんさそうゆうもんさ、深く考えるな」


ライターで火を点ける。線香の臭いは、嫌いじゃなかった。
でも佐助君はなんか嫌そうだ。確かに、嫌いな人は大嫌いな臭いだろうな。
火のついた線香の半分を佐助君に渡し、先にやってもらう。臭いが嫌いそうだから早めにやって早めに避けてもらおうじゃないか。

線香を線香いれに置いて、少し離れて、両手を合わせて目を閉じる。

そして次に目を開けたときに飛び込んできたのは…一粒の雨だった。


「うわっ降ってきてんじゃん。天気予報の大嘘吐き…傘なんて持ってきてねーよ…」


ぽつりぽつりと雨が降ってくる空を見つめながら言うが、佐助君からの応答がない。
あれ?と思いながら佐助君の方向を見れば…団子と菓子を持って、なぜか墓の後ろに回っていた。

こちらを見ながらへらりと笑うその姿に、違和感なんて感じない。


「最初会った場所ここなんだよねー、なんか新鮮」
「墓の後ろに人がいること自体斬新すぎて結構俺びっくりしてたけどな、あんとき」
「のわりには妙に冷静に団子くれたよね?」
「なんかお腹減ってそうだったし」


佐助君が笑うたび、俺が言葉を漏らすたびに雨は強くなっていく。

帰りはずぶ濡れだなぁ、なんて考えていれば佐助君から投げつけられる『何か』。思わず顔面で受け取った後、そのまま手の上に落としてみれば、それは折り畳み傘だった。


「…用意いいんじゃなくて?」
「あんな知らない人間の言うことなんて信じちゃダメじゃん?自分でこんくらいわかっとかないと」
「まぁ昔は天気予報なんてなかったからなー…そう考えると佐助君が雨降ってくるのを読めたのも、案外普通のことか」


ガチガチと音を立てて傘の柄を伸ばす。
佐助君との距離は、一番最初に会ったときのままだ。


「…なぁ、佐助君」
「んー?なぁに?」
「この世界は、楽しかったかい?」
「……………そうだなぁ、まぁ―――」


バサリッ、音を立てて傘を開ける。

声はもう―――途絶えていた。


「バイバーイ、お団子とお菓子泥棒さん。あと衣類泥棒もか」


一瞬傘で途絶えた視界。その間に消えた彼。墓で見えなかったが、その体はもう消えていたのだろう。そしてきっと、彼は雨が降るのは自然ではなく必然なのを知っていたのだろう。今日は雨なんて降る予定ではなかった。なのに雨が降ったのは、彼が帰るから。つまりは全部彼のせい。

バラバラと音をたてて傘に雨が当たる。
その音さえも心地よくて、思わず歌いそうになった。





(憶測内で全て予想できていたこと)
(俺と墓と雨と傘と団子と彼)
(それらが揃って、はじめて彼は元の時代へ戻れるのだ)

(…それを知っていながら、しなかったのは)
(単なる俺の、我侭さ)