「なぁ佐助君や」
「なーに?どうかした?」
「この時代には慣れたかい?」
「そんなこと言っても宿題は手伝わないよ」
「いやそうじゃなくてね」


純粋なる心配ゆえの質問さ。
ノートから視線を離さずに聞けば、数秒間が開く。きっとまたへらりとした笑みを浮かべているんだろうな。と相手を予測出来るくらいには俺の中じゃもう彼は日常で通常だった。


「うん。帰ったらもう一度鍛錬しなおさないといけないくらいには慣れたよ」
「はははーそんな皮肉が吐けるなら十分だ。帰ったら思う存分この時代の知識を利用しろ」
「あら、時代が壊れるとか言わないの?」
「べっつにぃ?ただ異端扱いされるのは俺のせいじゃなくて自業自得だからそこんとこよろ」
「はいはい勝手に或人のせいにして心中で呪っててやるよ」
「あらまあ酷いこと、」


心にも思ってないことを笑いながら吐けば、佐助君も一層笑みを深くする。
普通ならば居心地が悪いと言われるこの空間、いやこの空気に心地よさを覚えてる俺は、たぶんもう末期だ。

進まないシャープペンをノートの上に放り投げながら、この間現像した写真を手にリクと未央にメールを打った。


「俺様、この世界に住みたいとは正直思わない」
「でも?」
「……平和ボケできるくらいの世界なら、あってもいいと思うよ」


むしろ、こうなってもらわなきゃ困るって。そんな言葉を吐く佐助君に少しだけ同情した。彼が何をしているのかなんて知らないが、戦国時代というのだからどうせ戦争…内乱だろう。今の俺には全くもって関係ないことだが、可哀想だなぁ。と思うくらいはできるのだ。

まぁ、彼はその同情心さえも利用する対象としかみてないようだが。


「…いや、でも俺も人のことは言えないな」
「なにが?」
「んー佐助君の住む世界で住みたくないなぁっつーね。こんな平和ボケした人間が生きていける気しねーし」
「突いたらすぐ死にそうだもんね」
「いやどれだけ脆いのさ俺」


さすがに突かれただけじゃ死なないよ、穴は開くかもしれないけど。そう伝えれば爆笑していた。普通すぎることだと思うけど何がつぼったんだろうか?

けらけら笑う佐助君を無視し、震える携帯を確認する。メールを開いて内容を読めば、口が弧をかいた。


「行くの?」


いつのまにか笑うのをやめてたのか、目元に涙をためて聞いてくる佐助君。
彼の質問に答えるかのようにノートとシャーペンをカバンの中に突っ込んで立ち上がれば、彼も続いて立ち上がる。

いやぁ、俺はいい友達を持って幸せ者だなぁ!


「今日は暑いからアイス作ろうだとよ」
「今からじゃ或人バイトの時間になっちゃうね」
「帰り寄るわ」
「そ。ならいいや」


カバンを背負って、電気を消して、家の鍵を閉めて。

警察に見つからないように自転車に二人乗りすれば完璧だ。


「その変な乗り方でよく落ちないよな佐助君」
「まぁね。というか俺様の方が安全なのよ?飛び降りればいいだけだから」
「ははっでも俺はその乗り方マネできねーわ。自転車の上でバランスとらなきゃならないうえに空気椅子とか辛すぎる」


というかよくその体制で乗ろうと思ったもんだ、そう思いながら自転車を発車させた。




宿
(あ、そうだ佐助君)
(この写真、お前にもやっとくよ)
(お、ありがとー…って俺様とリク君と未央君しか写ってないじゃん)
(いや、だって俺撮影係りだしね。代わりといわんばかりに俺の写真がひっそり写ってる)
(写真の中に写真って微妙すぎるんだけど)