「ようし、ナンパに向かうぞ皆の衆!」
「佐助さん、或人。馬鹿は放っておいて金魚掬い行かない?」
「だな。その前に俺飴買ってくるわ。佐助君も食う?」
「いや、俺様はいいよ」
「くそう…男じゃないのかお前等…!」


お前はナンパ=男なのか、と言ってやりたくなるがいわないこととする。相手にするだけ無駄だ。
リクを放置して3人で移動しだせばやはりというべきかリクは謝ってついてくる。何度も思うがなんでこうも学ばないんだこいつ。

佐助君にも金を渡して、3人で金魚掬いをしている間に俺は隣で飴を買う。家に金魚鉢あったっけかなぁ…虫かごでいいか。確か昔の友達虫かごで飼ってたし。結構長生きしたなーお祭りの金魚だったのに。いや、俺が金魚殺しすぎなのかもしれないけど。


「よいっつ…あー!ポイ破れちまった!」
「リクってばなーんで下手なのに毎回やるのさ…」
「いや、未央のうまさはもはやただのチートだろ」
「ポイの枠だけで金魚掬えるってどんだけなのさ未央君…」


金魚掬い屋のおばちゃんにばれないように枠で金魚を数匹掬う未央に佐助君は軽く引きながら言葉を発した。凄いけどもはやそれ気持ち悪いぞ未央さんや。そしてリクの下手っぴさにはもはや言葉も出ない。
おばちゃんが未央のポイに紙が張ってないことに気づくと、未央は知らぬ顔であんまり取れなかったなーとおばちゃんに言っていた。いや、5匹って十分だと思うよ。


「次射的行こうぜ射的!!」
「えー…まぁリクが唯一得意なのだし行ってあげてもいいけど」
「なんで未央君そうも上から目線なのさ」
「それが未央だ、佐助君やあまり気にしないほうがいいぞ」


数匹金魚が入っている袋を揺らしながらリクのリクエストした射的へと歩く。佐助君にやってみるかと聞けば銃はあまり得意じゃないと言われてしまった。じゃああれか、ダーツとかの方が得意なのか。後でやらせようと思う。


「よし、じゃあ勝負だ或人!」
「結果見えてる勝負なんてしたくねー…しかもなんで俺」
「俺銃得意じゃないんだよね、頑張れ或人!」
「そんなにリク君上手いの?」
「ふっ…女の子のハートもバッチリ撃てるぐらいにはな!」
「未央君、リク君って本当に上手なの?下手なんじゃないのあれ?」
「女の子のハートには全く当たらないけど射的は上手いよ」
「酷いよさっちゃん!」


おいおいと泣き真似をするが、ちゃんと射的用の銃を構えるリク。勝負など言葉だけだからこちらも適当に銃を構える。お金、できれば無駄にしたくないなと思う程度だ。

特に合図もなしに、だが一緒に引き金を引いていた――――




「――いやぁ大量大量!」
「本当に射的上手かったんだねリク君…」
「まぁな!それにしてもさっちゃんこそダーツの風船割りとかボールで缶倒した点数で商品もらえるのとかかなり上手かったじゃん!」
「確かに確かに。野球かなんかしてたの?」
「アハーまぁいろいろね。未央君こそクジ運いいんじゃない?」
「これはいいというのだろうか…まぁそこそこにはいいのかもね」
「…で、或人ーできたか?」
「………もう少し…よし、できた」
「できたの!?」


綺麗に周りを割り、残った型をおじさんに見せればお金が渡される。
3人に金を見せながらピースをすればなぜかリクに抱きつかれた。おい、周りの女子なんで黄色い声あげた今。リアルBLとか言ったの誰だ出て来い。


「よく、よく俺の仇を取ってくれた…!」
「うわーよくやったねあんなちっこいの。俺様尊敬するわ」
「手先器用じゃない割りに頑張るよね或人は」
「地道なことは嫌いじゃないんでな。無心でやってるといつのまにか終わってる」
「のわりに手先器用じゃないよね」
「わかってるから二度も言うなよ未央、佐助君…!」


2人共器用なんだからやりゃあいいのに、と言うとそれとこれとじゃ訳が違うんだといわれた。器用人の言うことはよくわからん。

さて、貰ったお金でちょっと買おうかな、と思ったときに響き渡るアナウンス。
そうか、もうそんな時間か。


「うっし行くぞ或人!未央!佐助!目指すはグランドライ…って置いてくなぁ!」
「遅いのが悪い。アナウンス鳴ったら即行動。これ決まり」
「ちょ、どこ行くのさ或人?」
「川原だよただの、たまに火花飛んでくるから気をつけろよ」


今のところ1回しかないが、リクが座ってる近くに飛んできた火花を思い出す。あのときのリクの顔面白かったなぁ。
思い出に浸りつつも、リクを放置して皆で走る。佐助君はよくわかってないようだけどちゃんとついてくるし、未央はさっさか行ってしまう。どれだけ楽しみなんだあいつは。

川原に足を踏み入れたところで、爆発音が鳴り響いた。


「敵襲!?…って、あ…花火か…」
「敵襲とか怖い怖い」
「いや、でも強ち敵襲が来たのも間違いじゃねーぞ」
「え?」
「うわっへい!?」


後ろから聞こえる悲鳴に2人もやっとそちらを向く。視線の先にいるのはリクなのだが、先程飛んできた火花が丁度リクのもとへ降りかかったのだ。ちゃんと避けたようだけど、危ないなぁ全く。


「うわっへいとか何さリク…ぷくく」
「おい未央テメー俺と同じ立場になってみろ、絶対変な奇声あげっかんな!」
「いやにしてもうわっへいは…ねぇ?ぷぷ」
「つーか今回で2回目なわけだけど…リク、お前呪われてんじゃね?」
「マジでか!?」


俺に花火を見るなという神の思し召しなのかああああ!と叫びながらも俺等の近くに来るリク。未央に煩いと言われ蹴られていたが、知ったことではなかった。

空を見る。

そこには、満開の火で出来た花が咲き誇っていた。


「…綺麗だねぇ、爆薬をこんな使い方するなんて…本当、平和だ」
「いいじゃないか、平和で結構。ぬるま湯に浸かれるだけ浸かっておけばいい。あとで、湯が急激に冷めたり温まったりしても…ぬるま湯は忘れられないんだから」
「…希望を覚えろ、っていいたいの?」
「そんなばなな」
「面白くないよそれ」
「知ってる」


花火に照らされながら、尚も喧嘩しつづける2人に聞こえないように、だが花火の音にかき消されないような音量で話す俺と佐助君。
希望を覚えろなんていわないさ、ただ、浸かれるうちにいっぱい浸かっておけよというだけで。

空に咲く花を見ながら、酒が飲みたいと思った。





(時間がたてば消える、そこには何もない。元通りな空が広がる)
(…きみに残された時間は、あとどのくらいなんだい?)