「…暑い」
「暑いね本当…あ、ちょっと扇風機固定しないでよ」
「あ"ーーちくしょう、リクと未央2人共家族旅行だなんて聞いてねぇぞ…」


猛暑と呼ばれるこの夏に扇風機一台ではとても耐え切れるものではなかった。
いつもならリクか未央の家にお邪魔してクーラーで涼むとこなのだが、生憎2人共旅行でいない今頼れるのはこの一台の扇風機だけなのである。

だが、それもこの一番暑い時間、お昼近くになると全く効果のないものへと変わり果てていた。


「全裸でも暑さがなくならない夏は嫌いだ…」
「全裸より服着てた方が汗吸い取っていいけどね」
「わぁーってるよ、だから下着同然の格好と水タオルで頑張って凌いでるんじゃないか」


ぬるくなった水タオルを扇風機の風にあてて、冷えたところで体に当てる。
気持ちーけど、すぐにぬるくなるそれは本当に少しの間しか俺に優しくしてくれない。
佐助君を見てみるがやはり彼も暑そうで、扇風機の風がこない間は団扇で頑張っていた。

…あー、アイス食いてぇ。


「……そーだ、佐助君。カキ氷食べない?」
「氷菓子?」
「そうそう。夏の風物詩その1。シロップイチゴしかないけどいいよな」


佐助君の返事など聞かずに冷蔵庫の上に置きっぱなしなカキ氷機と、適当に器とスプーンを持ってくる。
残念ながら自動カキ氷機ではなく手動だ。凄く疲れるけどその分うまさが増すはず。仕事して帰ってきたサラリーマンの夜の一杯といったところだ。

ふたを開けて中に氷をガラガラと入れる。佐助君はとりあえず見てるだけだ。今回はいつもお菓子を作ってきてくれる佐助君へ俺が作り返してやろうじゃないか。


「佐助君、回すからお皿ずれないように持ってて」
「んーわかった」


佐助君が器を持ったのを確認してハンドルを回す。結構古いカキ氷機だからスラスラと行かず、たまに氷に引っかかって進まなくなったりするとそっちに係りきりになって器にまで注意がいかないのだ。このカキ氷機は1人でやるに値していない。
ガッと氷にひっかかったりしてハンドルが進まなくなると、1回戻して力ずくでハンドルを回したりするがらたまにちょっとやばい音がするがいつものことなので気にしない。
佐助君はひやひやしながら大丈夫なの?それ大丈夫なの!?と聞いてくるけど今は答えてる暇などないので無視だ。

そんなカキ氷についやするならもっと別なことに使えといわれそうなほど体力を使ってできた2杯のカキ氷は、それはもう美味しそうだった。


「氷ってこんなにシャキシャキするもんなんだねー」
「まぁな…電動カキ氷機まじ欲しい…」


イチゴシロップをかけてシャクシャクと食べている佐助君。どうやらお口には合ったようだ。
他の味も食わせてやりたいがシロップはそんなに消費しないから一本しか家にない。今度リクと未央に聞いてみようと思う。

シャクリ、シャクリ
  ミーンミンミンミン
ブーーーーーン
  サンサンサンサン

あぁ、夏の風物詩が沢山だ。





(氷の音、蝉の声)
(扇風機の動く音と照りつける太陽)
(さすが夏って感じだなぁ)