虹村くんと! | ナノ



「加藤、これ教室持ってってくれ!」
「えっ」
「先生もう時間がないんだ、すまん!よろしく頼んだ!」

言うやいなや、さっさか背広をもって走って行ってしまった先生をぽかーんと見届ける。
なにやら本当に時間がないのは察せたものの、だからといってか弱き一女子にこの量の荷物を運ばせるとは、いかがなものだろうか。

「というか先生、溜めすぎでしょ…」

束になった丸付けの終わったプリントに、回収されていたノート。それから次の課題だろうプリントと、更にはそのプリントの解説に使うらしいプリントの束が!というかたぶん普通にHRで配るようなプリントも束になって置いてある!さすがにこんなに持てないよ先生!!
もう行ってしまった先生へ届かない悲鳴をあげる。何度か往復してもいいけれど、職員室から我が教室までは、正直いって近くない。そんな距離、何度も歩きたくないというのが本音だ。

「あれ、加藤じゃん。なにやってんだよそんなところで」
「あ、小羽くん」

たまたまだろう職員室にやってきたカモ、おっと。つい思わず口が滑った。けれどカモ以上に最適な言葉は見つからない。
思わずにこりと微笑みかければ、彼はびくっと肩を震わせた。

「小羽くん」
「あ、俺、顧問の用事で来ただけだから。顧問の先生いねーな!しょうがねえ、探しに行くわ!じゃあな加藤!」
「おい小羽ァッ!」

アデュー!と言わんばかりにさっさと去っていく小羽に思わず怒鳴りつけるものの、やつは一切合財足を止めてはくれなかった。
やつにはもう二度とお菓子をくれてやらん。そう決心して、もう一度先生の机を見る。何度見たって変わりようのないプリントの束に、ため息をついた。

「しょうがないかー」

よっこらせ、とプリントをどうにかひとまとめにして持ち上げる。とても重い。けれど何度も往復するのは絶対に嫌だ。
まあ、落っことしたらきっと誰かが助けてくれるだろう。そんな他力本願のもと、私は職員室を抜け出した。

「あれ?加藤、なにやっての」
「お、今度はウッチーか。手伝ってくれてもいいのよ?」
「私箸より重いもの持てないから無理だわ、虹村よろしく」
「は?お前この間20キロの籠持ってなかったか?」
「男はちまっこいこと気にしてねぇで黙って働けや虹村ァ」

やばいくらい理不尽なウッチーの言葉に、渋々と、けれども半分以上プリントを持ってくれた虹村くんに私は感涙の涙しか出ない。プリントってこんなにも軽いものだったんだね…!

「加藤もなんでこんな重いの一人で持ち歩いてんだよ」
「先生に文句言ってくださーい、あと小羽」
「小羽ならさっきさっさと戻ってきたけど?」
「私見捨てて帰りやがったからね!」

もう二度とやつにはお菓子くれてやらん。私の決心は硬い。
三人でぽてぽてと教室に戻ったあと、小羽くんには全力の飛び蹴りを食らわせておいた。