虹村くんと! | ナノ



「あ、虹村くん」
「あ?加藤か」

ぱったり、と言わんばかりに廊下でぱったりと出会った。はて、この時間彼は部活に専念していて、普通に考えてこんな廊下でぱったり出くわすような人物ではなかったと思うのだけれど。
私の考えていることが読めたのか、虹村くんは不機嫌そうにため息をつく。おお、なんだかこわいぞ。

「あー、と。そうだ。加藤、お前一年みてないか?人相悪くて髪が灰色なんだが…」
「灰色?」

ふと思い出すのは、少し前に遅れて入ってきた、くそ生意気な後輩だと愚痴る虹村くんの姿だ。別に身体的特徴をあげていたわけじゃあないけれど、確か珍しい苗字をしていた気がする。
はいいろ、そう、灰崎、とかいう子。

「えーと、見てはいないんだけど…その子がどうかしたの?」
「部活サボりやがった」
「あー…そりゃまた、ご愁傷様」

用事があって休んだんじゃ、とか。そもそも今日もしかして学校にきてないんじゃ、とか。いろいろ思うことはあるけれど、きっとそんなのはもうとっくに視野にいれた上で、サボりだと認識して、こうして自分の部活時間も捨てた上で探しに歩いている虹村くんに尊敬の念を抱く。主将だから、なんだろうか。それにしたってあんなにもたくさんいる部員の中から、的確にひとりいないことを見出して、わざわざ自分の足で探しに行くんだからすごいもんだ。

「っと、悪いな加藤。もう行くわ」
「いーよいーよ、むしろ引き止めてごめんね?」
「いや、サンキュ。少なからずこっちにゃ来てねえってことがわかっただけいいわ。じゃあな、また明日」

忙しなくぱたぱたと駆けていく虹村くんの後ろ姿を見届けながら、ふと思い出したことがあったから、後輩の面倒も見て、主将の仕事もしてと大変そうな虹村くんに、ひとつ。助言をするために、大きく息を吸った。

「虹村くーん!第三校舎の、裏庭!あそここの時間帯になるとぐっと人が寄り付かなくなるから、もしかしたらそこかもー!」

反響する廊下の力も使って届いたらしい声に、虹村くんは振り向かずに手を上げた。