虹村くんと! | ナノ



キーンコーンカーンコーン。間延びしたチャイムの音。それに合わせてだらりと体の力が抜けていく生徒たちを見て、苦笑しながらも教科書を閉じる先生。仕方ないといえば、仕方ない。がたがたと椅子を鳴らしながら立ち上がり、先生の声で授業を閉じる。がやがやとざわめきはじめる周りをゆっくり視界にとどめた。



「おねがいします…」
「俺にはなにも見えない」
「そこをなんとか」
「俺にはなにも見えない」

前の時間から、ずっとアピールされていたことなんて知らない。号令と共にノートをもって机にと同じサイズになりながら頭を下げている存在のことなんて、まったくもって、知らない。

「虹村ー、お昼行かねーの?」
「今行く」
「ちょっとまってそこをなんとか」
「俺にはなにも見えない」

がっしりと足を掴まれたことなぞ知るかと言わんばかりに歩き出そうとしたら、そのまま引きずられようとしやがったのでさすがにやめた。
はあ、と大きくため息をつけば、にこにこと笑いながらちゃっかり俺の隣のやつの机を確保してる加藤を見やる。その様子で悟ったらしい優秀なクラスメイトは、がんばれという言葉だけ置いて自分はさっさと食堂に行きやがった。あいつだけは許さない。

「…で、どこだよ」
「さっすが!次の時間の数学のプリントなんだけど、」
「白紙とか言ったら殴る」
「そんなまさか。私小羽くんとは違うから。」
「どういう意味だよ!」
「いや、でも小羽白紙だろ」
「ぐ………!」

大変悔しそうにしているところ悪いが、プリントを見せるつもりはさっぱりないから早々に視界から小羽の姿を消す。加藤はというと、ぱらぱらとノートをめくり、なにやら奮闘したらしい数式の羅列とプリントを俺に見せてきた。本人が言ったとおり、さすがにやっていなかったわけじゃねーらしい。

「ここの問17から先がいくらやってもわからなくて…」
「あー、ここから先か。あ、でも問8間違ってるぞ。」
「うそ、どこ?」
「ここ計算ミスってる。あと問3は式合ってて式の方に書いてある答えも合ってんのに、肝心の答え欄の答えちげーんだけど。どっから出てきたんだこの24。」
「あっれぇ…」

おかしいなぁと頭を傾げる加藤にデコピンをかましておく。どうやら俺が何度教えても、ケアレスミスだけは直らないらしい。本人も自覚はしているのか、申し訳なさそうに眉を八の字にしている。

俺もこれ以上この話題には触れないで、とっとと解けない問題とやらを教えることにした。