「なぁなぁ、俺山本武!よろしくな!」

拝啓、外国に居るらしい父様。母様。
私将来アイドルになる彼に、間接的に殺されそうです。



わざわざ後ろの、それも女子の私に話しかけなくてもいいと思う。他に男子いるだろ。ちょっと女子からの視線が痛いんだけど。もうアイドル化ですか、いいですねイケメンは。私はつらいよ。精神的にも肉体的にもすごくつらいよ。
さっそく打ち砕かれそうになる傍観ルートを、どう持ち直そうか模索しつつ控えめによろしくの挨拶をすれば、彼は満足したのか別な子へ話しかけにいった。ほっ。どうやら今のはモブイベントらしい。まだ崩れてないよ傍観ルート、さすがだ傍観ルート。やれば出来る子。

少しずつ増える教室の人間に声をかけていく彼は、さすがは人気者まで上り詰める男だと、そう思う。紙面だけじゃわからない行動をこうして目の前で見るというのはなんだか斬新だ。
…そうだ、これ、紙面じゃなくて、リアルなんだよなぁ。
今更すぎる感情に、やっぱりまだ少し受け入れられていない自分をみつけた。原作と呼ばれる物語が始まる頃には、きっと、よくなってる。言葉を交わしたのに、まだ受け入れられないとは。案外自分の心は狭いもんだ。黄昏ながら、時計をみる。だいぶ揃った人たちはみんな、仲が良さそうだ。はええな中学生。伊達についこの間までランドセルしょってたわけじゃねえな。ついこの間まで車飛ばして社畜してた私とは偉い違いだ。

クラスメイトとの年齢差を感じながら、校門を駆け抜けて行く茶色い髪から視線を外した。



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