「…ちょっと早くつきすぎたかなぁ」

校庭から朝練の声がする。新入生はまだ部活に入ってないから、先輩方だろう。だから昨日の彼がいるとは思ってない。学校にかけられた時計をちらりと確認しながら、自分の下駄箱へと向かう。ぽつりぽつりと靴が入っていて、一番のりなんかじゃなくて安心した。だって入学してすぐ一番のりって…ぶっちゃけ楽しみにしすぎてる感がして、恥ずかしい。そこまで楽しみじゃないですごめんなさい…。

「あー、でも学生気分はいいなぁ、楽だし…でもせめて高校が良かった…」

中学とか規則校則ばかりでつまらない。高校に行けば少し軽くなるんだけどなぁ。あー、バイトしたい。
ぐるぐると考えながら、迷わないように一個ずつ教室のプレートを確認していく。ええと、1-A、1-A…。そういえばこの学校って数字じゃなくてアルファベットなんだな…前世では数字だったから、なんだか変な感じ。

「あ、ここだ」

危ない、通り過ぎるところだった。締まりきっている扉に、少し緊張する。音なんてしなければいいのに。というか私、社会人だったくせに中学校の扉ごときでビビりすぎだ。深呼吸深呼吸。すーはーすーはー。してないけど。よし、いこう。

意気込みに反して、ゆっくりなるべく音がたたないように扉を開く。それでも静かな教室には十分な音が響き、片手で数えられそうな人数の視線が突き刺さった。

なにこれ気まずい。

「…おはようございまーす」
「…おはよう」
「おはよー」

控えめに挨拶すれば、控えめに返される挨拶。そっと視線を元の位置に戻す人を見て、思う。

なにこれ気まずい。

中学生もっとはしゃげよ、なんて思いながら黒板へ目を向ける。やっぱり席順は昨日とちがうらしい。記されていた席は一番端っこの一番後ろ、窓側だ。最高だ。昨日は一個前だったから正直ほとんど変わってないけど。でもこれ、前の席の子が背おっきかったらつらいなぁー、なんて思いながらそっと座席表を流すようにみる。私の祈りとは別に、大変残念なことに女神は微笑まない。なんてことだ。おいどうしてだこれどう頑張っても視界に入るじゃねーか、むしろ黒板見えねーだろこれ。心の中でものすごい葛藤をしながら、自分の席へと行く。頑張って心の準備をしよう。そう決めながら座った瞬間に、響く扉の音。

「おはようございマス!」

明るく爽やかな笑みで静かな空間をぶち壊してくれた、そう彼、山本武君がそこにいた。


ジーザス!せめて心の準備する時間くらいくれよ神よ!!


虚しく響く私の心の声は、周りの子の控えめなおはようにかき消されていった…。




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