「ちょっと最近フラグ立ちすぎかな」
「ん?なんか言ったか?」
「なんでもないよ。それよりも私、足遅いから、よろしくね?」

結局押し切られる形でやる羽目になった二人三脚。ぶっつけ本番で二人三脚とか、正直無謀だと思うんだ。あと体のコンパス違いすぎるしさ。まぁ棄権するわけにはいかなかったんだろうけど、それにしたってもうちょっとマシな人選があったでしょうって。

「うーん、まぁ大丈夫だろ。雨宮だしな!」
「そのよくわからない信頼、すごくやめてほしい」

ぎゅっと私と彼の片足を一緒に縛りながら、得点板を見る。残り科目と合わせて考えても、やっぱりもう少し欲しい点数。別に負けたって、たかだか学校行事だし、私に問題っていう問題はひとつも起こらないんだけど、

ふと、思い出す。そういえば、最後の最後にやる棒倒し。
あれはそういえば、結局、負けてしまうんだったなぁと。

だったらもう、あんまり、頑張る必要はないかなって。ぐだぐだになって終わるのを知ってて、まじめにやるなんて馬鹿みたいだし。そう考え始めたら、ちょっと頑張って一位とったのもバカらしくなってきてしまった。どうせぶっつけ本番の二人三脚がうまくいくわけもない。じゃあもう、テキトーに、流そうかと。思った。

「雨宮、」
「っ!」

突然ふってきた声に、見透かされたかと思った。びっくりして声のした方を振り向けば、山本くんはさっきの私と同じように得点板を見つめている。

「負けたく、ねーよな」

こっちを振り向かずに、ただ一点に得点板を見つめたまま吐き出された言葉は、嫌になるほどまっすぐで。
彼がこのあとの残った科目と得点を計算してそれを言ったかどうかは、私にはわからない。そんな複雑に考えずに、ただ、今負けたくないと思っただけかもしれない。どんな思いにせよ山本くんと私の考えは相反している。たかだが学校行事と切り捨てている私と、そうじゃない山本くん。勝ち負けなんてどうでもいい私と、どうせならやっぱり、楽しくいたい山本くん。

これが大人と子供の違いかなぁ、なんて思ってすこし自分の実年齢を実感しながら、「そうだね」と返してやる私は、やっぱりぜんぜん子供になんてなれやしなかった。



結局、知ってるとおりに棒倒しは内乱のうち沢田くんが落ちて、私たちの体育祭は幕を閉じた。
結果がどうあれ笑い続ける山本くんからそっと目を逸らしたのは、別に、深い意味なんてないんだって、言い続けてる。


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