なんとなく一部始終を目撃していたのかなんなのか、あのある意味憧れとも言えるセリフを生で聞いてテンションがMAXにまで近づいた私だったけれど、さすがにただのクラスメイトでしかない彼にお世話になるわけにはいかない。年下だし!という謎の社会人精神が働いて全力で遠慮させていただいたんだけど、まぁ、あの、その、はい。

「雨宮ってひとりで買い物してんの?」
「あ、あー、うん。ひとり暮らし中だから。」

一緒に帰って、ます。

甘酸っぱい、なにこれ甘酸っぱい。そんなことを思っているのは私だけだろうけれど、彼からすればただ困っているクラスメイトを助けただけなんだろうけれど、でも思い出してほしい。私は、言ってしまえば彼が本命だったのだ。しかも私の青春時代を全て彼に捧げたといってもいいかもしれない程度には本命だったのだ。社会人になっても、あの頃のように全力は出せなかったけれど、それとなく夢物語等を嗜んできた身。彼の10年後と言われる年齢さえも越してしまったときは多いに枕を涙で濡らしたけれど、うん。見た目は私も中学生当時になって、彼と同い年で、なんといいますか、俺得ですありがとうございます神様まじ神様。
わたしもうしんでもいいわ。なんて思いながらもふわふわとした意識を、生まれてこの方磨き上げたポーカーフェイススキルで隠し通す。実は今すぐにでも壁に頭を叩きつけたい気分だけれど、人前でそんなこと、社会人としての意地がさせません。「ひとり、暮らし?」と意外そうに聞いてきた彼に、なんてことのないような笑顔を見せながら「両親、海外出張中だから。」と、誤解させないように付け足しておく。あー、と納得した彼は目をそらした。わかりやすいやつだ。

「でもそれじゃ、大変じゃね?」
「大変だけど、海外行きたくなかったし」
「そうなのか?」
「私、英語嫌いなんだよね」

へらっと笑えば、へらっと笑われた。そんな理由かよ。そんな理由だよ。大丈夫大丈夫、嘘は言ってない。

「あ、私の家ここだから、荷物ありがとう」
「中まで持って行くぜ?」
「さすがにそこまでは…お願いします」

受け取ろうとしたけど持ち上がらなかった袋を見て、素直にお願いしました。はずかしっ。



 /