「なぁ、教科書忘れちまったから見してくんね?」
「…後ろみながら授業うけたら怒られるよ」
「うーん…でも隣休みだしよ……あ、そうだ!雨宮が隣移動してくりゃいんじゃね?」

こいつは三日目で教科書を忘れてきた挙句、私を殺し上げる気か。そうかそうか。確かにこいつァ生まれながらの殺し屋だわ。まいったまいった。ああ、女子の視線が痛い。



そのまま言いよどんでいたら、私の隣の子がここぞとばかりに「私が見せてあげるよ、ちょうど真後ろだしね」と言って山本君の隣の席へと教科書を持って座った。周りの女子の視線が私から一気にその子に移ったのを見て、中学生ってこわいって思わず思ってしまった。そんなことに全く気づく様子もない山本君は、律儀にも私にお礼を言ってからその子にお礼をいっていたけれど。私、何もしてないんだけどなぁ。っていうか席移動して怒られないのか、そうなのか。

「(…しまった、見えない)」

本来ならば山本君が彼女の方へ移動するのが通だろうけれど、彼女は山本君にそんなことはさせなかったらしい。おかげで普段山本君を避けてみるためのルートが、綺麗に彼女に塞がれてしまっている。しまった。どうしよう。背の高い彼が憎い。めっさ右に動いたり左に動いたりしてもいいんだけど、あんまり動くとたぶん目立つ。というか山本君達に気づかれる。気づかれたくはない。あの山本君のことだから、なにかしら提案を出されるだろうし、どっちにしろ女の子には鋭い目で見られる。どっちも嫌だ。

「(ま、…一回くらい、いっか)」

ノートを借りれる友達もいない。けれどまだ入学してから日にちは言うほどたってない。だから逆に、授業もいうほど真面目でお堅い授業なんてやってない。だから抜いても、平気だろう。高校ならまだしも、中学校だし。基礎は大事だけれど、まだ私だって出来るレベル。あー、なんだかやる気なくなったら眠くなってきた。さすがに寝ないけど。手持ち無沙汰を解消するためにノートに絵をかきながら、頑張って眠気飛ばそう。


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