「…長曾我部」
「も、うり…」
どうして、こうなった。 血潮にまみれた陸に、落ちているのは徳川の旗。
どうして、どうして、こうなった。
「毛利ッ…なんで、野郎共が…ッ!」
「………」
「なんで、なんで家康の旗があるんだよッ!なんでッ!…なん、で、野郎共が……死んでんだよ……」
「…ッ」
ギチ、と手のひらが鳴る音が聞こえた。痛いというよりも、どうしてこの自体を見越さなかったのかという叱咤の意味合いのが大きくて、痛いなんて思う暇もなかった。
どうして、この可能性を放置した。 こうなる可能性は十二分にあったではないか。
大谷が、我の言葉を綺麗に聞き及ぶなどと、そんなわけがあるはずなかったではないか!
「…長曾我部、今日城を開けることは誰かに申したか」
「いや…お前に自前に文を出したくらいだ…あとは、野郎共にしか…」
「…文?」
「お、おう…連絡もなく来るなって言うから…一応書いてお前んとこの忍に渡しておいたんだけどよ…」
「……あの忍は先日から帰ってきておらぬ…チッ、そこからか」
「………すまねえ」
どっちに謝っているのか…どちらにも、謝っているのか。 それにしても…厄介なことをしてくれたものだ。我だからこそ誰かこれをしたのかすぐに察知できたが、真っ直ぐな…愚直なこやつのことだから丸呑みするだろう。この現状を。それはいい、それは別にいい。…だが、バレた後が厄介だ。城を開けたから、ヒトが死に、そしてこの事件とは全く関係のない友に刃を向け、そして真犯人の元で刃を振るった。それが、全て、バレてしまったら。
「家康…の、旗……なんで、変わっちまったんだ…家康…!」
「………、…………」
言葉は、音になることはなかった。
臆病者は語らない (その恨みさえも真っ直ぐで、思わず、目をつむった)
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