動かない長曾我部の体に、駆け寄ることも、手を伸ばすことも、ましてや、声をかけることだってできやしなかった。
なんで、とか、どうして、とか。いくらでも頭の中に言葉は出て回るというのに全てが音になることはないと知っている。いくら口を開いても、音は一つも出ずに、そしてまた口を閉じるということしかできないのだ。
思い出せ、思い出せ。なぜこれは、血濡れで、倒れている。なぜ一番似合わぬ色をまとって、倒れている。なぜこれは、起き上がらない。なぜこれは、眠っている。なぜ、これは、なぜ、なぜ。 誰が、これをこうした。誰が、これを見逃した。
誰が、これを、護ると、そう誓った?
「っ――――全部、私じゃぁないか!!」
こいつを護ると誓っておきながら、こいつを殺しているのも。 こいつを殺させないと誓っておきながら、こいつを護れなかったのも!
「何を見逃した!なにを見越さなかった!!この結末は、ちゃんと、識っていただろう!!!なぜ気づかなかった、なぜ、なぜ、なぜ!! どこに妹を殺す兄貴がいるかだと!?それならば―――ッ!」
続くべき言葉を吐く前に気がついた。だって、それは、もう、私が言っていい言葉ではない。私が吐くべき言葉ではない。 思い出せ。私は何で、何を吐き出していいのか。 思い出せ。我は我で、吐き出すべき言葉などもう無いということを!
「ッ――――――、ぁッ…!」
ごくん。
吐き気さえも愛おしい (飲み込んで、飲み込んで。私はそうして生きてきた。飲み込めば、丸く収まると、そう信じていた。)
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