目が覚めたら、真っ白い場所にいた。口に何か邪魔なものがついてる。外してみた。腕にも邪魔なものがついてた。外してみた。すん。臭いをかいでみた。酷く消毒くさかった。そうか、ここは病院で口にあったのが酸素マスクで腕についてたのは点滴か。理解した。それと同時に絶望した。ああせっかく彼女に会えたのに。せっかく彼女を見つけたのに。しかも来世(さき)に行くでもなく前世(まえ)に戻ってくるだなんて。ん?ちょっとまてよ、戻ってきたんだじゃなくて、あれは夢物語じゃないのか?そうか、そうだな。全部は夢物語。僕が長い間見ていた、ただの夢物語なんだ。

考えがまとまったところで、ガラッと音がして誰かが入ってくる。
とても懐かしい気がした。でも、誰だか詳しくはでてこなかった。


「…おはよう」


いろいろ言いたいだろう。でも、その一言でなぜか涙が出た。あぁあぁ。目覚めてしまったのか。生きていたのか。始まったわけじゃなかったのか。終わってもいなかったのか。最終地点にいっていたわけではないのか。あぁあぁあぁ。涙が止まらないよ。どうしてくれるんだ。彼女は、彼女はどうしているというんだ。あそこにいるということは、僕と同じく夢物語を見ているか、来世(さき)にいっていたということだろう?教えてくれ、教えてくれよ。彼女は今、何処にいるんだい?


「…本当、あんた、おかしいわ」

「いいよおかしくて。お願いだ、彼女は今どこにいるんだい?」

「それを聞いて、どうするの?」

「…迎えに行きたいんだ」


微笑みながら言えば、目の前の女の人は深く溜息をつく。そして前髪を掻き揚げたと思ったら、苦笑をしながら教えてくれた。


「彼女なら、交通事故にあって昏睡状態よ」


窓を開けてくれた。ああ相変わらずいい人だ。手をとってくれた。ありがとう、ありがとう。やはりきみは、“私の母親”だ。


「ありがとう。いってきます。」


私は、飛び降りた。


「いってらっしゃい。早く帰ってきなさい。“  ”。」


私の母親は、笑っていたかもしれない。



失われた名前が僕を呼ぶ
(私は“  ”)
(僕は“無人”)
(彼女は『  』)
(誰かは  )


失われた名前が僕を呼ぶ