今日は普段と違い、誰だかわからない人に無理矢理どこか連れて行かれた。ああ面倒くさいなぁ。僕はそう思いながらも抵抗する術を持たないので素直についてきていた。

そして誰だかわからない人が立ち止まった場所は、体育館裏という古典的でベターなところだった。


「お前さぁ、いじめてるんだって?」


誰だかわからない人は僕に背を向けたままそう問うてきた。今更じゃないだろうかと思う反面それは間違いだと言いたい。第一あの女を虐めても僕にメリットなど存在しない。彼女を虐めるのももちろん僕にメリットは存在しない。彼女がかなりのドMで皆から虐めてほしいとか言う人だったらまた話は別なのだが。彼女の為になる行為ならば僕は喜んで行おうじゃないか。彼女が望む行為をすることが僕にとって最大のメリットだ。

おっとっと、しまった。また思考が飛んでいたようだ。
時間にすればたった数秒なのだが、随分相手を待たせてしまったように感じる。否定をすべきかどうかは僕にはわからない。否定をしても無駄なのだとわかっているせいだろうか?まぁ、決め付けはよくないのだが。
まぁでも別に彼が僕の言い分を信じ僕の所謂味方になってくれたところで僕にメリットは存在しないから翻弄して遊んであやふやにしたままにしておこう。そうしよう。

そうと決めた僕は見知らぬ誰だかわからぬ人の背中に向かって喋り始めた


「皆が言うのならそうかもしれないね」

「…否定は、しないのか」

「噂は所詮噂なんだ。皆が言うことを君が信じるか、真実を探すかはきみの自由さ。ちなみに僕が助言すると言う行為は僕にとって都合のいい言葉を並べ立てきみを僕の味方という位置に引きずり下ろす可能性を秘めているかもしれない。だから僕はきみの問いに否定もしなけりゃ肯定もしないことにしようと思っているのかもしれないね」


自分でも何が言いたいのかよくわからなくなってしまった。僕は何が言いたいんだ。というか今何言ったんだ僕。相手を翻弄しようとか思ったはずなのに翻弄できている気がしない。ああこうゆうとき彼女なら…ああでも彼女は翻弄なんてこと考えないか。彼女の周りには必ず味方が存在していたし。もちろん僕も彼女の味方なのだが。

目の前の知らない人は数秒固まったあと、頭をバリバリとかいてまるで参ったとでもいいたげな表情でこちらを振り向いた。うわ意外とイケメンだ。


「お前自分の噂どこまで知ってる?」

「さぁ…とりあえず僕がとある1人の女子生徒に告白してふられたから乱暴に走った挙句今だに虐めを続けている最悪少年だという話だったのは覚えているよ」

「結構知ってんだな」

「自分の噂程耳に入ってくる、というかあんなあからさまな態度取られたんじゃあいやでもわかるよ。てか僕の場合は周りがそう言ってたのを覚えてるだけなんだけどね」


いやぁ普通本人に言うか?って聞きたいくらいだったよ。無表情でそう言ってのければ見知らぬ誰だかわからない人はキョトンとした表情になり、次の瞬間爆笑し始めた。しまった。どうやら選択を誤ってしまったらしい。

内心で小さく舌打ちをこぼしていれば、腹を抱えて笑いすぎて涙がでている見知らぬ誰かさんは一通り笑い終えたのか、涙を拭いながら僕の方を見た。


「お前、ぷ…くく…!おっもしろいなぁ!ぷ、はは!」

「何が君のツボに入ったのかはわからないけどまぁいいや、どうせそれを聞いたところで僕が何か利用できるわけでもなさそうだしメリットが全く無い。とりあえず用事が無いなら僕はもう帰ろうと思うのだがいいだろうか?」

「うっわー超自己的。もうちょっとお喋りしよーぜ?」

「…きみとお喋りをして僕に一つでもメリットがあるなら付き合ってあげてもいいのかもしれないね」

「俺がお前を知りたい」

「それは僕のメリットではなくきみの目的だ」


ああ、どうやら酷く面倒臭いやつと知り合いになってしまったのかもしれない。それから結局僕は授業を完全にサボって、というかむしろ今日教室にさえも行かせてもらえず放課後までずっと見知らぬ誰かに引き止められていたのだった…



そんな眼で僕を見ないで
(お願いだから懐かないでくれよ)
(僕には彼女以外いらないんだよ)
(だからきみにくれてやる情もないんだ)


そんな眼で僕を見ないで