あれ以来俺は徳川軍隊士だ。家臣とかになったと思ったか?残念、この世の中そんな甘くできちゃあいなかった。無理矢理引き連れてきた割に豊臣といた頃となんら代わり映えしない生活をエンジョイ中である。

ああ、でも一つだけ違うことがある。それは周りからの評価だ。
ある者は家康様についてきた、ということで凄くよくしてくる。その反対のある者は裏切った人間を信じきれない、ということで凄く警戒してくる。またある者は前後関係なしにただただ俺という一平隊士に全くもって興味がない人間達だ。


「…疲れた」


ぽつりと意味の無い言葉を吐く。別にここ連日何かあったわけじゃない。
ただ、色々と疲れた。何もなくて疲れたのかもしれない。だからといって戦が好きなわけじゃない。

心身疲労困憊、といったところだろう。平成の人間が普通にここで生活できるはずがない。リクも未央も見つからない中普通に生きろというのが無理だ。けどまぁ、まだ風邪になったりしてないだけいいか。


「或人、起きてるか?」


襖の向こうから俺を呼ぶ声がする。ああ、もうそんな時間か。
刀はずっと握っていたので、後は立って襖を開けるだけだ。凄く面倒でだるいけど、どうせ動くのだから今行った方が早い。

ふぅと溜息を吐いて、襖を開けるため立ち上がった。



▽△



「我等、誇り高き雑賀衆!只今より、契約の赤い鐘を執行する!」


目の前で声を上げ、拳銃を空に3発撃っている彼女は雑賀衆の頭を務める雑賀孫一という人間らしい。
金などで動くのではなく己の力を正当に買ってくれるとことしか契約を結ばないだとか。

正直どうでもいいが、彼女等がいるかいないかでは凄く戦況が傾くらしい。まぁあんなに鉄砲いっぱいもってりゃそりゃ傾くだろ、と思わないでもない。


「家康様、後はお帰りになりますか」
「ああ、赤い鐘は執行された。もう契約切れまで彼等がわしらを裏切ることはないから安心して帰って大丈夫だ」
「…いや、待て徳川。お前に来客だ」
「何?一体誰が…」


来客になど心当たりがない俺と家康様は頭を横にかしげるばかりだ。

まぁ、その傾げられてた時間も僅かほどしかなかったわけなんだけど。


「いぃぃいいいぇえぇえええやぁあああすううう!貴様ァ!また私から奪うというのかぁ!」


腹の底から出される叫び声、怒気と殺気しか含まれていないそれはあまりにも重く、禍々しいもので、めちゃくちゃ煩かった。


「…みつ、なり…」
「私から秀吉様を奪っただけでは事足りず…戦で全てを奪うつもりか、家康ぅ!」
「わし、は…わしは、絆の力で天下を治める!」
「黙れ!その煩わしい生を停止させてやる!」
「秀吉殿のやりかたではだめなんだ、三成!」


びっくりするほど会話のドッジボールです、はい。
これで会話が通じてるのか全くわからない。そして俺はどうすればいい。ここにいたら巻き込まれること必須だろう。けれどさっさと帰るというわけにもいかない。なぜかって?俺の背後には刑部様がいらっしゃるからだ。ちくしょうなんてことだ。ただの平隊士が武将様に勝てるはずがないのに。

こちらはこちらで戦わなくてはならないのか、死亡フラグしか見えないぞ。
俺の考えもよそに刑部様はいまだ何かいう気配はない。殺す気も見えない。とりあえず俺から話しかけることにした。


「刑部様、お久しぶりです。お元気でしたか?」
「…元気よゲンキ、主と徳川を殺したくてたまらない三成を抱えているから元気でいなければすぐ死んでしまうでな」
「あーだからそんなに胃が悪そうなんすね。胃薬でも飲みますか?今持ってませんけど」
「主と徳川が早々に三成に残滅されれば我の胃痛もなくなるのだがなぁ」
「俺は友達見つけてないんで、まだ死ぬつもりないですよ」
「それは裏切った自分を呪うがよかろ」


トン、と背中に当てられた玉を感じて両手を上げる。俺にこの人が倒せるはずがないのでここは素直に降参するとしよう。
いまだ何か言い争っている2人を視界に入れながら、俺と刑部様の会話は続く。


「主は徳川の企みを知っておったのか?」
「いえいえ、滅相もない。何か企んでいるのは少し気づいてましたけど内容までは知りゃしませんっしたよ。あんな大層なことなら尚更隠すなんて真似しなかったっすね」
「ヒッヒ、主が徳川側についたのは周知の事実ゆえな…そんなことを言われてもあのとき既に徳川側ならば我達に話す意味はなかろ?」
「仰る通りで」


俺がもとから家康様側なら、それは事実となる話だろう。実際の事実なんて俺と家康様と忠勝様しか知らないのだから。2人が口裏を合わせてしまえば俺1人反抗したところで無意味。というかまぁ忠勝様は口裏を合わせる必要もないだろうけどね。

俺を信じてくれ、といって真実を話したところで意味は得に無い。裏切った事実には変わりないのだから。
つか三成様は裏切りが大嫌いだから裏切りで入ってきた人間に対しても厳しいだろう。痛いのは、ごめんだ。でも死ぬのはもっとごめんだ。


「…主は、どっち側だ?ことによっては殺さず生かして連れ戻ってやろう」


その後の生など、確証されないと言うのにか。
こっちにきてから脅されること多いな、と思わないでもない。そんなに俺が使えるようにも思えない。まぁ今回の刑部様のは徳川の情報を持っている俺が欲しいだけだろう。終われば用無しでぽいだ。


「…俺は、どっち側でもねーっすよ。つかどっちでもいいです。俺が探してるのは友人だけだ」
「…そうよなぁ、主はそうだったよなぁ。では、友人を探している主にひとつ。情報を与えよう。なぁに、タダとは言わぬ。そうよなぁ…徳川の情報と、主がこちらに戻ってくることを条件としようか」
「…凄い売り文句っすね、刑部様…どっちに転がっても死亡フラグしか見えねーんすけど」
「心配するな。三成はあれでも主のことを気に入っておる。早々と死ぬことはなかろ…まぁ戻ってきた瞬間刀で殴られることは覚悟しとけ」
「いやだからそれが死亡フラグですよ刑部様。刀の重さ+あの速さだと普通に死にそうなんですけど」
「そのときはそのときよ」


ヒッヒと相変わらずな引き笑いをする刑部様。
目の前で家康様が忠勝様にのって一時退散したことで終わりを見せた言い合いの中、見捨てられた俺はどうすることもできなかった。

ただ、刑部様の爆笑が無償にムカついた。




行く先にあるは幸か不幸か
(…荷物持ち歩くようにしといてよかった)
(ヒッヒ…選択権はひとつしかないが、どうする?)
(…お世話になります)
(ヒッヒッヒ)