死んだら帰れるのか、なんて疑問は回答を得ることはできなかった。
なぜかというと俺は今現在進行系で生きているから。ただ、それだけの答えを貰った。


「おい或人!怠けるな!秀吉様のために全力を尽くせ!」
「いや無理っす。三成様の脚力と人間の脚力一緒にしないでやってください」
「ははははは!これは一本取られたなぁ三成!」
「貴様等の努力が足りないからだ!刑部はついてこれる!」
「三成様、刑部さん歩いてません」
「あっははははは!」


爆笑しながらも拳を振るう家康様に、怒鳴りながらも刀を振るう三成様。そんな2人に巻き込まれないように一定の距離を保ちながらそれなりに近くにいる敵の首を斬ってるのが俺だ。
ちなみに今いる場所は知っての通り戦場。男な俺は普通に隊士として戦に駆り出されていた。

倒れたあの日から丸一日後、空腹で起きた俺は秀吉様が治める城にいた。そこからそれなりに荷物を確認された俺はあれよあれよという間に豊臣軍に加入だ。本当一体どうしてこうなったんだろうか。ついでにリクと未央は結局見つけられてはいない。


「………雨が来る」
「空は晴天よな或人。血の雨ならば先程から降り注いでおろう。不幸の雨か?」
「いや普通の雨ですよ。空から降り注ぐ水。人から噴出される液体じゃないっす」
「…ふむ。そうかソウカ。ならば早めに済まさなければいかんな」


そう言うや否や、刑部様は空を飛び三成様のもとへと向かう。
そういえば少し考え事をしてるうちに随分と遠くに行っちまった。戦場で考え事をしてもちゃんと殺せてるあたりの自分の変化が少し悲しい。

辺りを見渡してみるが、三成様も家康様もいない。刑部様は今行ったからいないのは当たり前だけども、それにしても…、


「……嫌な臭いがする」


雨の臭いじゃない。血や死の臭いが混ざり合った、酷い臭いだ。

自分の刀を見て、思う。刀は重いしすぐ斬れなくなるから好きじゃない。だからといって素手で向かうにはそこまで戦闘力がないし、忍のような苦無でいくにはリーチも風評もよくない。苦無を持っているだけで何を言われるかわからないのにんなことできるわけがない。まぁこれでも的に当てるのは得意だったけど、それでも自身の身が一番だ。

空を見て、地面を見て、刀を見て、そして………振り出した雨を見て、尚も思う。


「………あ、秀吉様、死んだかも」


家康様が何を企んでいたのか、小さく光った山を見て、やっと解った気がした。



▽△



結局秀吉様の死亡で戦は幕を閉じた。三成様はいまだ秀吉様の亡骸の隣で泣いている。刑部様も一緒だ。

そして俺は、なぜか家康様と一緒にいた。


「俺も裏切り者扱いされるから早々に戻っていいですか」
「まぁ待ってくれ、そこらへんの配慮はちゃんとしてある」
「いや今現在すぐにでもあそこに駆けつけないと俺凄くおかしい人になるんですけど」
「実はな、或人にはわしと共にきてほしいんだ」
「スルーですか相変わらずですね家康様」


急にきて攫ったと思ったらそんな話か、というかこれは半分以上脅しなんじゃないだろうか?忠勝様の上で話してる時点で俺に選択権はないと思う。
これがもし特に何も考えずただ話しやすい場所として選んでるだけだったらこいつはとんだ狸だ。この天然ちゃんめ☆では片付けられないぞ。

とりあえず選択権はなくとも、相手は話し合いを望んでいるようだからこちらも一応話し合いにのらなくてはいけないだろう。一つ咳をして姿勢を整えた。


「お言葉ですが家康様、俺はしがない一隊士です。家臣でも武将でもありません。そこまで腕立つ者でもありません。なぜそんな俺を家康様は欲するのでしょうか?」
「わしはお前を買ってるんだ。拾った当時は確実に死ぬと思ったいたが今こうして生きて、しかもわしや三成の近くにいても死なないし刑部にも怯えなく接している。わしはそういった絆を信じたい!」
「そして、その絆の世界を作るために、刑部様や三成様を受け入れてくれた秀吉様を殺したというわけですか。信じたい絆を自らの手で潰したわけですか」


そりゃまぁ大層な絆への信頼ですね。そこまで言ってみたが後悔はしない。むしろここまで言って相手がどんな返事を返してくるのか、そっちのほうに興味がわいた。
別に秀吉様を殺した家康様に特別憎悪のような感情は抱いてない。ただ同情のようなものは沸いてくる。何に対してかなんて自分でもわからないけど、ただただ、可哀想にと思う。

だから別に喧嘩を売っていたわけじゃないのだが、忠勝様が機械音を立てて威嚇してきたことに関しては謝ろうと思う。心の中だけで。


「…ははっ、それを言われてしまうと…何も言い返せないなぁ。いえることは一つ、わしは…後悔はしていない。してはわしのやったことは意味を成さなくなるからな」
「後悔してない、じゃなくてしたくないと思ってるだけですねわかります」


表情を変えることなどせず普通に言い返せば、家康様は少しきょとんとした表情の後一瞬だけ泣きそうに笑った。その笑みの意味なんて俺にわかるはずはない。


「なぁ…或人、もう一度聞く。お前は…わしと共に来てくれるか?」


苦しそうに笑った顔を見て、あたりを見渡す。下にいるのは忠勝様だし、目の前には拳で人を殺す家康様だ。飛び降りても生きれる距離ではない。しかももう、城に近い位置だろうに。

これはもう、答えなんて決まっているじゃないか。


「俺、何度も言ってる通り…人探してるんすよね」
「…ああ、知っている」
「つまりは、そうゆうことです」
「いいだろう。その条件を飲もう」


じゃあ、それまでは、わしと共にいてくれ。
有無を言わさない笑顔で言ってくる家康様に一つ、笑みで返した。




綺麗事では終わらない
(荷物は前もって持ってきてくれていたらしい)
(ああ、なんとも無慈悲で自己中な子供なんだろうか)

(子供同士の喧嘩に巻き込まれるなんて、真っ平ごめんだというのに)